114 あねさまキツネ(尾去)
参考:鹿角市発行「花輪・尾去沢の民俗」
あるところに人が良くて働き者だが、お酒がめっぽう好きだというオヤジさんがおり
ました。ある秋の終わりのことです。隣村の嫁どりのお祝いに呼ばれて出かけましたが、
帰りはすっかり気げんよくなって、得意の唄を口ずさみながら歩いていましたら、あた
りが急に暗くなりました。けれど、いつも歩いている一本道なので、まちがえることは
ないと、別に気にもしていませんでした。
その時、どこから出て来たのか、美しい色白のあねさんがあらわれて、千鳥足のこの
男の手をやさしくとって、道案内をしてくれたので、嬉しく有頂天になって、その美人
さんに引かれるまま足をはこんでいたら突然、ゴッツン!!と、何かに額があたったの
で、ハッと気がついて、パッと大きく目を開いたら、それは稲を乾かすために丸太を組
んで作ったハサ(稲かけ)に、花火が出るほど強くぶつかったのでした。しかも仲よく
つないでいた女の人の手は、毛むくじゃらの……。
『しまった、キツネにだまされた!』
と気がついたので、このオヤジさんは、いきなりその手をたたいてやったら、
「ギャッ、ギャッ」
とないて逃げて行ったということです。そしてこの男は、紋付羽織も袴も泥だらけのヨ
レヨレになった上、額に大きなコブのおまけまでもらったのですが、親切なおかみさん
は、きっと一晩中介抱したと思います。もちろん結婚式の引き出物もご馳走も何もなか
ったそうですが、ひどいショックで、
「もう酒はぜったいにやめた」
とちかったそうですが……。
こんなことがあって何日か後、小雪がちらつく頃に、雪の上で寝ながら死んだ人があ
ったというので、大さわぎになりました。それは、やはり嫁どりに呼ばれて行った帰り
のようだったし、それに又倒れていた場所も自分のだまされたところのすぐ近くだった
ので、
『やっぱりあの狐ではなかったかな、きっとあねさまに化けたあの狐かも知れない』
と思ったということです。
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