109 夢で遊ぶ子どもたち(花輪)
 
                    参考:鹿角市発行「花輪・尾去沢の民俗」
 
 これは、明治の終わりか大正の頃かと思いますが……。
 ある若い男の先生が、山奥の小学校に勤めた時のことだそうです。その頃は、男の先
生は替わり番に宿直といって、学校に泊まり、夜警のように一定の時刻に校舎を一回り
して、安全を確かめたものだそうです。
 お人好しのこの若い先生は、先輩の代わりも勤めるので、いきおい宿直の回数が多く
なっていたようですが、学校にも馴れ、子どもたちとも親しくなった頃、一寸おかしい
事が起きました。それは夜中になれば、
「パタバタ……。パタバタ……」
と、子どもたちが二階の廊下を走るような音がしたり、
「パラパラ……。パラパラ……」
と、小豆か豆でも転がるような音がするのです。それで、その度に起きて校舎をまわる
のですが、異状がないのです。けれど、こうした日が続き、ろくに眠れないので、とう
とう病気になりそうになりました。
 
 それで夏休みに家に帰った時、家の人々に話したら、祖母は、
「それは子どもさんたちが、学校に夢で遊びに来ているのだろう」
と。言われてみれば、
『そうかなあ』
と、すなおに思うようになってからは、学校に戻って、いくら宿直をしても、様々の夜
の音が気にならなくなり、
『あ!! ○○ちゃんのお手玉かな……。やぶけて中の小豆が散らばったのかな、○○
君たちの鬼ごっこ、かくれんぼだな……』
と、考えているうちに、ぐっすり眠れるようになったということです。そして子どもた
ちに、ますます慕われる教師になったそうです。
 
 又、
「子どもがよく寝言などを言う時は、キット魂が抜けていることがあるから、からかっ
て、それに受け答えをしたり、おどかしたりすると、出て行った魂が帰れなくなること
があるので、ソットしておくものだ」
とも、祖母から教わり、生涯そのことを信じ、子どもの心を大事にして暮らしたという
ことです。
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