107 神社に泊まった六ぶさん(花輪)
参考:鹿角市発行「花輪・尾去沢の民俗」
昔、六ぶさんといって、大きな箱を逆さに背負いながら、門カドづけをする人がありま
した。子どもたちは、そのような人が来ると、ゾロゾロと後をついて歩いたものでした。
その箱の中には、何が入っていたかは分かりませんが、キラキラしたものがいっぱい下
がっていたような気がしました。
その六ぶさんがこの町に来た時は、よほど不景気な年だったのか、一日中、門々に立
っても、拝むのを頼む人もないし、さっぱりお金をもらえないので、宿屋にも泊まれず、
致し方なく坂を登りつめたところに建っている八幡さまに泊めてもらうことにしました。
そこは、普段神官さんも誰も居ない小さなお社だったそうですが、
「一夜の宿をお願い申します」
とていねいにお祈りして横になったら、何だかウトウト眠くなりましたが、やがて夢枕
に立った神様の、次のようなお告げがあったそうです。
「この坂を下った通りに○○という家があるが、そこの家でお産が始まっている、大変
な難産で母子とも命があぶない。直ぐに行ってご祈祷してあげなさい。助けに行きなさ
い。けれどこの子は五才になれば水難に遭って亡くなるだろうに……」
と。六ぶさんは、早速目をさまして急いで坂を下り、○○という家をさがしたら、神さ
まのお告げどおりの家があり、お産で苦しんでおりました。そこで主人にそっと、神社
での事を話して一生懸命お祈りしましたら、不思議にも無事に丸々とした可愛い男の子
が生まれました。みなんホッと安心したようでしたが、次は水難よけのご祈祷もして、
沢山のお礼をいただいたそうです。
その後、この子はどうなったか分かりませんが、きっと水難もまぬがれて丈夫に育っ
たと思います。そして霊験あらたか八幡さまとして、戦の神さまだけではなく、火伏せ・
家内安全・お産の神様としてまで、みんなに信仰されたといことです。
○○家ではそれから後もずっと、あの六ぶさんを待っていたけれど、とうとうこの町
には姿を見せなかったそうです。それできっと、おの人は神さまの仮のお姿だったかも
知れないと、みんなで考え、うわさするようになったということです。
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