103 はなしの話(花輪)
 
                    参考:鹿角市発行「花輪・尾去沢の民俗」
 
 昔、八幡平の五の宮のお社の上の方に、美しいお姫さまがあらわれるというので、村
の若い衆がからかい半分に、
「ひと目でも、見たいものだなあ」
と言って、かわるがわる山へ登ったそうですが、とうとう姿をあらわさず、誰一人見る
ことが出来ませんでした。
 
 その頃、この村に五郎助という若者が住んでおりました。五郎助はまだ幼い時、父母
は旅に出たっきり帰らないので、祖父母に育てられて大きくなりました。ところがこの
若い者は、どっちかというと頭の良い方ではなかったけれど、正直で働き者な上、ぢい
さんばあさんを大事にするので、村の人々からも、
「ごろすけ、ごろすけ」
と、可愛がられておりました。あるとき祖父母が、
「ごろすけや、お前も五の宮のお姫さまに会いたかったら、行ってくればえ」
と言って、にぎりめしをいっぱいにぎってくれたので、それをしょって山へ出かけまし
た。
 
 五の宮のお社に行くまでには、かなり登らなければなりません。それに秋も深くなっ
たせいか、道がしめってすべり大変だったようですが、ようやく神社に着き、近くの太
い木のかげに隠れて、今か今かと一生けんめい待っていました。けれど一日たっても、
二日たってもあらわれないので、あきらめて帰ろうと思っていたら、神さまのお使いら
しい銀白の狐が出て来て、
「もう一晩がまんして待ってなさい」
と言われたので、
『どうせ、ばあさんのにぎってくれたおにぎりがまだ残っているから、これが無くなる
まで……』
と思って、とうとう三日目の晩を迎えました。
 
 その日は十五夜さんだったのか、まるい大きなお月さんが出ていました。その輝く月
や星をながめて、どの位の時がたったでしょうか。夜ふけになったら、何だか、
「ザワ、ザワ、サワサワ」
という音がしました。それと同時に何とも言えない良い匂いがだよい、あかるくなった
と思ったら、それはそれは美しいお姫さんが、大勢の女官をお供につれてゾロゾロと歩
いて来ました。五郎助は大木にぎっちりつかまって隠れて見ていましたが、あんまりき
れいなお姫さんなので、ウットリしていつの間にか、隠れていたことを忘れて、身をの
り出して、木から手をはなしてしまいました。途端に夜露にぬれた草に足をとられて、
スッテンと転んでしまいました。
 
 その恰好がよほどおかしかったのでしょうか、お姫様はじめ女官たちも一せいにこち
らを見て、
「オホホ、オホホ」
手をそえて、ほほえんでいたのが、次には、
「アハハ、アハハ」
と、口を大きくあけて笑いこけました。五郎助ははずかしくなり、下を向いていました
が、ソッと顔をあげて見たら、お姫さまはじめお供の人々には、歯が一本もなかったと
いうことでした。
 「歯無し話」これでドットハライ。
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