102 福っ子わらし(尾去沢)
 
                    参考:鹿角市発行「花輪・尾去沢の民俗」
 
 昔ある町に沢山の人を使っているお金持ちの大地主が住んでおりました。ところがこ
の家に、いつの頃からか、きたない白のボロボロ着物を着た男の子が住み着くようにな
りました。
 この子はせいがひくく、頭が大きく、その上みっともない顔をしておりました。けれ
ど朝早く起きて庭の掃除や、かまどの火たきなどの手伝いをしてくれるので、召使たち
は、
「福助の福っ子とか、福っ子わらし(子どものこと)」
と言って可愛がり、そっと食べ物をやったりしていました。けれど家のおかみさんが起
きてくる頃になると、裏の小屋の方へでも行くのか見えなくなるのでした。このことを
主人が聞きつけ、
「同じ人の子だもの、めんどうみとやってケロナ」
と、使用人たちに頼み、裏の小屋に寝床をつくらせたりしていましたが、おかみさんは
そんなことは大反対で、いつもガミガミ小言ばかり言っていました。
 
 ある日のこと、主人が用事があって遠くへ出かけた留守の時、福っ子は今度はどうし
たのか、座敷にあらわれたのです。いつものように白のボロ着物を着ていましたが、そ
れに大きな袋を引きずりなから出て来たのには余程びっくりしたのでしょう。
「この貧乏わらし、出て行け!! シュッ、シュー、シュー」
とどなりながら、長いほうきで追いまわし、遂にえんがわから突きとし、ゴミでもはき
出すようにザッザーとやりながら、主人の居ない間に追い出して、せいせいした風に得
意になっていました。
 
 お金持ちを追い出された福っ子は、今度は町はずれの一番貧乏なお百姓の老夫婦のと
ころへ、
「お世話になりたいです。何とかおねがいします」
といってやって来ました。この老夫婦は大よろこびで迎えたのですが、
「私のところは、このとおり粟がゆと菜っぱ汁しかないが、たんとおあがり、おなかが
すいているダンベ」 
と親切に沢山ごちそうしました。そして夜は、二人の間にふとんをしいて、自分たちの
孫のように可愛がってやりました。
 
 ところが、どうでしょう。この子が来てからは色々と不思議なことがありました。
 その、
*第一は、今まで腰のまがっていたこの老夫婦はだんだん若かえって、しゃん、しゃん
と働けるようになったのです。
*第二は、空っぽの米びつには、いつもお米がいっぱい。
*第三は、空のさいふにも、お金がどんどん入るようになった
と、いうことです。
 おじいさんとおばおさんは、
『この子はきっと福の神の福っ子だろう』
と思い、それからも自分たちの子どもとして育てたら、家はだんだん栄えていったとい
うことです。
 
 反対に福っ子を、身なりがきたならしいばかりに、
「貧乏わらし!!」
と、どなりつけて追い出した大地主の金持ちはどうなったでしょうか。夫婦けんかは絶
えないし、召使いも一人二人とへり、主人が亡くなった後は、急に貧しくなり、家のや
しきも人手に渡ってしまいました。そして、あの気の強いぜいたくなおかみさんは、ど
こへ行ったのか、消えるように居なくなったということです。
 
 追記
「家の中のごみを外へはき出すとき、目に見えない福の神を外へ逃すことがあるので、
一旦塵取りで集めること、特にお正月には気をつけるように」
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