5813火の粉の中に立つ四人のお上人さま(花輪)
 
                    参考:鹿角市発行「花輪・尾去沢の民俗」
 
 昔、花輪の下シモの方、近くには町の治安を守り、何か事があった時のための同心ドウシン
の住居が立ち並んでいる中に、一きわ大きなお屋敷がありました。
 この家には、大変信心深い一家が住んでおり、朝から晩まで家業に精出すばかりでな
く、近所の人々とのつきあいがよく、また困っている人には、愛の手をさしのべるとい
うので、みんなに慕われておりました。そして、どんなに忙しい時でも、朝夕仏さまに
お経をあげる事を欠かさない、という一家だったそうです。
 
 ところが、ある年の夜のことでした。近くから出た火が燃え広がり、大火になってし
まいました。そしてこの家に、今にも火が移るではないかと心配されたその時、近くの
人々は、不思議なものを見ました。それは、四人のお坊さんがこの家の屋根の上に立ち、
火の粉をあびながら、衣の袖で猛火を防いで下さっているお姿だったそうです。そのお
坊さんは体が大きく、まるで仁王さんのようであったとか、思わずそれを見た人は、手
を合わせて拝みました。そうしたら、急に風向きが変わり、人家のない西の方へ流れ、
やがて火が消えたそうです。
 
 その後、あの四人のお坊さんのお姿は、いくらさがしても見えなくなったということ
です。このことが、人から人に伝わり、
「あの一家は信心深いため、難を救って下さった。ありがたいお上人さま方だったろう」
と言われたそうです。
 今はその一家は代替わりとなり、この屋敷の住人も替わりましたが、大黒柱には、あ
りがたい経文がはられているそうだと、固く信じ大事に守っているということです。

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