5701狐キツネに騙ダマされかかった話(西道口)
 
                    参考:鹿角市発行「陸中の国鹿角の伝説」
 
 私が大館中学校(今の鳳鳴高等学校)の一年生であった昭和十九年の秋、確か十一月
の半ば頃のことでした。
 曙村(今の鹿角市八幡平の一部)の長内オサナイの親戚イトコで祝い事があって、家の人達も
行っているために、私も大館の学校の帰り、家には寄らないで長内の親戚へ行って、御
馳走になりましたが、けれども汽車通学のために、朝間アサマ一番の汽車に乗るので、次の
朝四時前、前夜の御馳走を重箱に詰めて持たされて、親戚の家を出たのでした。大した
霧の深い朝間で、長内を出て石鳥谷イシドリヤの手前の、二ツ森に来たら、畑の中にある筈
ハズの「粟ニヨ(ニオのこと。実の付いた穀物の殻を小山のように積み上げたもの)」
が、道路を歩いていた私の目の前に、霧の中から、飛ぶような勢いでニューッと立った
のです。
 
 アッと思ったけれども、ニヨにぶつかるようになったら、ニヨはスウッと見えなくな
ったのです。
 けれども、また少し歩けば、目の前にニヨがニューッと立つ、確かに此処ココは道路だ
よなと思って、ニヨにぶつかるように進めば、スウッと見えなくなります。
 このようなことが何回も起こったために、急に怖ろしくなって、霧の中を走って石鳥
谷の先輩の家へ行ったら、
「ウン、あそこにな、質タチの良くない狐が居て、騙された人達が沢山居るのだ。騙され
ないで良かった。良かった」
と言われたのです。

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