5404金の長芋ナガイモ
 
                    参考:鹿角市発行「陸中の国鹿角の伝説」
 
 徳川家康トクガワイエヤスが江戸に幕府を開いた頃の話です。陸奥ミチノクの津軽と南部の境を定
めるために、南部の代官十左衛門と云う人が、鹿角にやって来ました。十左衛門は、錦
木ニシキギ村の白根シラネ金山から、尾去沢オサリザワ村の山々を調べて、大体この辺りを境に決
めて、しばらく此処に居ることにしました。
 このような田舎に代官様が来たために、村の人達みんなして誘い合って、ご苦労のお
見舞い旁々見物しに行ったために、十左衛門の屋敷中は大騒ぎになりました。
 十左衛門の方も、親切に村の人の相手になって、百姓の難儀なことや、作物の出来具
合などを調べたために、
「お代官様は、どんなに良い方でしょう。俺達百姓の言う事も、聞いて下さるし・・・・」
「そうだな。今度来た代官様は、南部一の良い男ですね」
と、みんなして言って喜びました。
 
 さて、ある日のこと。
 十左衛門の屋敷に年取った百姓の女が、二人の息子を連れて訪ねて来ました。あいに
くその日は忙しかったために、十左衛門はまた別の日に来いと言いました。
 女はすぐ分かって、土産に持ってきた藁苞ワラツトを置いて帰りました。その夜に十左衛
門がその藁苞を開けて見たら、中から四尺程の長芋が出て来ました。
「おお、これは見事なものじゃ」
と、手に取ってよく見ると、その芋はキラキラと金色に光っていました。十左衛門は驚
いて、早速家来に命令しました。
「これを持って来た百姓の女は、何処ドコから来たものか、すぐ此処ココへ連れて参れ」
 そこで家来は、その夜のうちに百姓の女を連れて来ました。
 
 「お前の用事とはどんな事じゃ」
と、十左衛門が親切に訊きました。そうしたら、女は聞いて貰いたかったことを言いま
した。
 話によれば、十何年も前のこと、夫が死んでからはその後に遺された土地を欲張りの
おじが、みんな取り上げてしまって、今はどうして生きていったら良いかと困っている
と云うとこでした。
「では、お前には子供はいないのか」
と、十左衛門が訊くと、
「太郎子、次郎子と云う二人の子供がおります」
と、百姓の女は暗い外を指さしました。見れば、粗末な形ナリをした若者と、その弟と思
われる少年が、地べたに座って心配そうに話を聞いていました。正直そうな二人の若者
の顔を見て、
「よろしい、よく調べて出来るだけの事をしてやる。まず今夜は安心して帰れ」
と、十左衛門は申し渡して、次の日から早速、村の長老を集めて意見を聞き、欲張りと
言われるおじも喚んで調べたたら、みんな百姓の女の言った通りでした。そこで十左衛
門は、おじの取り上げた土地を女に返すように話を進めて、円満にこの事件を解決して
やりました。
 
 百姓の女はとっても喜んで、村に帰ってみんなにこの話をして、十左衛門のことを誉
めました。それからは村中に、こんな噂が立ちました。
「お代官様は、長芋がお好きだと」
「長芋を土産ミヤゲに持って行けば、俺達の願い事も叶うようだ」
と、まあこう云った訳で、十左衛門の処に、芋を掘って差し出す者が次々と出て、屋敷
の台所も長芋の山で埋まってしまいました。
 
 さて、十左衛門がその芋を一つ一つ調べて見ると、どれにもみんな少しずつ金の砂が
付いていました。
「さてさて百姓は、砂金の有り難さを知らないのか」
と、十左衛門は家来を連れて百姓の女を訪ね、芋畑へ行ってよく調べたら、矢っ張り辺
り一帯は、素晴らしい砂金の畑でした。
 十左衛門はすぐに境界を決めて、此処に番所を置き、太郎子や次郎子とも力を合わせ
て、畑の土に水を入れて、掻き回して流し、残った砂を乾かすと、びっくりするほど砂
金を採ることが出来ました。これが白根金山発見の始めです。
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