5400光る怪鳥カイチョウ
 
                    参考:鹿角市発行「陸中の国鹿角の伝説」
 
 昔、南部の国(岩手及び青森・秋田の一部)の、鹿角の里に尾去オサリ村と云う処があり
ました。
 この村の奥に大森山と云う大きな山があって、木がいっぱい生えていました。
 文明十三年(1481)辛丑カノトウシの年、この山から光る物が出て、近くの村の上を飛び回
りました。村の人達は大変こわがったそうです。
 昼間、その飛んでいる光る物は、羽根を広げると左右の長さ十余尋(約二十米)もあ
る大きな鳥でした。人を捕って喰うばかりの勢いでした。
 口から金色の火を吹き出し、その鳴き声はまるで牛ベコが吠えているようで、山々に響
き、山が崩れるような物凄い音でした。
 村の人達は、恐ろしくて、生きた気がしませんでした。
 この化け物のような鳥は、夜になれば飛び回って田畑を荒らしました。
 
 村で山伏をしている慈顕院ジケンインの別当(神主)が、村の人達と毎晩、天に向かって
一心に拝んでいました。
「天の日の神様、どうか、この恐ろしい大きな鳥を退治して下さい。そして人々を安心
させて下さい」
 あるとき、大森山の方から、あの大きな化け物みたいな鳥が、泣いているように叫ん
だり、苦しくて悲しがっているように叫んだりする声が聞こえて来ました。
 その後化け物みたいな鳥は、飛んで来なくなりました。
 村の人達は、不思議に思って鳥の泣き声のした方へ行きました。
 そうしたら、赤沢川を流れている水は何時イツもと違って、朱(綺麗な濃い赤色)を流
したように赤くなっていました。
 この赤く流れている処を探しに、登って行きました。
 
 そうしたら、沢水の流れている黒瀧コロタキの処にあの鳥が赤く染まって、うつ伏せにな
って死んでいました。
 みんなでこの鳥を引っ張り起こして、恐る恐る見ました。そうしたら、なんと広げた
羽根の左右の長さは十三尋(約二十四米)もありました。
 頭は大きな蛇にようで、足はまるで牛ベコの足そっくりでした。
 鳥の毛は赤と白がぼつぼつと混ざっていて、処々に金の毛と銀の毛が生えていました。
 背中と首の処に、四つ五つ程の大きな傷が付いていました。
 腹を裂いて見ました。
 そうしたら、胃袋の中に穀物ゴクモノ・魚・虫・鳥・草木など何にも入っていなくて、金
・銀・銅・鉛ナマリの鉱石がいっぱい入っていました。
 
 そこで、尾去村の村長ムラオサがじっくり考えてから、
「我は最近、夢の中で白髪の爺さんと会ったが、その時、我に新しい山を掘れと六回も
お告げがあった。これまで、何処ドコの山を掘れば良いのだか全く分からなくて日時が経
ってしまっていたが、今、この鳥の胃袋から金・銀・銅・鉛が出て来たのは、これこそ、
この山を掘れと云う神様のお告げに間違いない」
と言いました。
 そこで、この山の所々を掘って見たら思ったとおり、四色に光り輝く金・銀・銅・鉛
の鉱石がいっぱい出て来ました。
 こうしたことで、田郡タゴリ・横合ヨコアイ・赤沢・西道サイドウ・崎山サキヤマ・勢沢キオイザワ・下
タ沢など鉱石が出る山一帯は、大森山からの分かれで、峯つながりの子山なので、この
山や沢一帯を纏めて尾去沢オサリザワと呼ぶようになりました。
 このときから、御銅山ゴドウザン(尾去沢鉱山)が始まったと云います。
 
 村の人達は鳥の体の大きな傷が付いたのは、どうして付いたか不思議がりました。 
 一体どんなに強い人が退治してくれたのであろうか、神様が殺してくれたのであろう
かと思いました。山や谷を探し回って見たら、大森山の麓の処に獅子シシの頭のような大
きな石が土の中から出ていました。
 丁度口のように見える処に、血がいっぱい付いていました。
 そこで村人達は、
「これは、きっと鳥をやっつけたのは、この獅子頭シシガシラの神様石だろう。此処ココの処
に獅子の頭が土の中から出て来たのは、この大森山は獅子の体で、この山につながって
いる山々は、この獅子の手足だろう」
と言いました。
 
 此処の処にお堂を建て、そして、あの恐ろしかった鳥も此処に埋め、村の守り神様と
して、お祀りすることにしました。
 この神様を、大森山オオモリヤマ獅子シシ大権現ダイゴンゲンと云いました。
 また、尾去の村長の夢の中に爺さんが出て来て何回も新しい山を掘れと、お告げ事が
あったので、新山シンザン大権現とも呼びました。
 大森山は、周りの子山の親山でもあるため、親山シンザン大権現とも云いました。
 
 化け物みたいな鳥を退治した獅子は、元々は勢至菩薩セイシボサツ(悪魔を退治する強い神
仏シンブツ)の化身ケシンで、村人を苦しめた鳥は阿修羅アシュラ(人を苦しめる悪魔神)の化身
でした。
 それで獅子と化け物みたいな鳥が、激しく戦ったのです。
 獅子と鳥に化身した神様が、この山に金・銀・銅・鉛がある処を教えるためにやった
戦いでした。
 あの鳥が物凄く泣いて叫んだ夜は、九月二十三日でした。
 また、勢至菩薩様のお告げのあった日も二十三日でした。
 それで九月二十三日を、獅子大権現のお祭りをする日に決めました。
 尾去沢の中で、田郡・横合(上新田カミシンデン)・長坂ナガサカ(長坂金山)・西道(西道
金山)・赤沢アカサワで二十三日の夜、お祭りがあったのはこのことからなのです。
 また、鳥の血が流れて沢の水が赤くなったため、此処を赤沢と呼んだのが、赤沢の呼
名の始まりでした。
 
[地図上の位置(大森山)→]
関連リンク 「尾去沢大森新山獅子大権現御傳記」

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