5401遣い姫物語
 
                    参考:鹿角市発行「陸中の国鹿角の伝説」
 
 昔のことでした。
 尾去沢の近くに不思議な美人が現れて、付近の山とか谷などをぶらぶらと、廻って見
て歩いていました。
 それは恰好カッコウは良いし、顔や目鼻の綺麗キレイな美人でした。
 それで、そこいら中の村の女好きの男は、涎ヨダレを垂らして見ていました。
 この不思議な女は、とても物静かで上品で、何とも近くに寄るのがもったいないよう
な気がして、誰もどうすることも出来ないでいました。
 そして毎日毎日、ただ遠くから見ているだけであったと云います。
 
 ところがあるとき、この女は尾去沢の佐藤清助セイスケと云う若者の家に来て、
「どうか、私を泊めて下さい」
と頼みました。
 清助は、この不思議な女の噂話を前から聞いていたので、しばらく考えましたが、も
し泊めたりして何か大事オオゴトにでもなれば困ると思って、知らないを振りしていまし
た。
 それでも、十日経っても二十日経っても、余所ヨソに行かないで、其処ソコに居ました。
 ある日、その女が清助に向かって、
「此処ココの山の下シタ(地下のこと)を掘って見て下さい。あっちの山の下も掘って見て
下さい」
と言いました。そして、
「此処を掘れば、この世の中でも珍しい金と云うものが出て来る。お前は、この金を国
主クニヌシに差し出し、国の役人になったらよいでしょう」
と言いました。
 ただの百姓者の清助は、言われたことが何のことだか、さっぱり分からないで、あの
女は不思議なことを言うものだと思っていました。
 山の下にある金と云うのは、一体どんなものだか、話ばかりでたいしたものでないだ
ろうと、馬鹿にしていました。
 
 その金のことよりも、毎日毎晩何回も話す綺麗な女のことを考えているうちに、汚キタナ
い考え事が出て、清助はまず金も欲しいと思ったが、それより先にこの綺麗な女と一夜
を一緒に過ごして見たいと思うようになって、それはそれは、どうにもこうにもならな
くなりました。
 そこである日の夕方、あの女が山の方から下りて来るところを、途中で隠れて待って
いて、家に連れて行こうと思って、後ろから抱き付きました。
そうしたら、その女、
「私は、仙台センダイの金華山キンカザンから来た神様の使い者である。お前は、その汚い心を
直して、私の言う事に従いなさい」
と言いました。
 その途端に、清助の目の前からその女は消えてしまいました。
 
 清助は、今、女から言われたことで考えを直し、自分の汚い心に気付いて、ハッと元
の自分に戻り、目の前から消えていなくなったあの女を慕って、膝ヒザを突いて拝みまし
た。
 そして、これまで何回も言われた処に行って、掘って見たら、其処ソコから金・銀・銅
・鉛の鉱物がいっぱい出て来ました。
 清助はこれで、大変立派な人になったと云います。
 それで、尾去沢鉱山の始まりは、仙台の金華山の神様からのお使いの、お姫様のお告
げで見付けられてから始まったと云われているのです。

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