15 地蔵岩(小豆沢)
 
        参考:八幡平地区連合青年会発行「むらのいぶき(八幡平の民俗)」
 
 八幡平公民館前の旧道を湯瀬渓谷沿いに約二百米行くと、左上に地蔵岩がある。この
一帯の岩石や岩壁は、何万年もの水の流れで削り取られ、絶妙な大景観に造り上げられ
てきたものであろう。
 大昔の信仰は大きなもの、強いものなど人間の力では及ばない偉大なものへの畏敬の
念を込めて、神として祀ったと言われております。地蔵岩も何時の頃かは定かでないが、
こうした信仰の対象として、この辺りの人達に知られて来たといえよう。
 この地蔵岩の名は、秋になって岩に絡み付いた蔦が紅葉すると、まるで地蔵様が赤い
前垂れを下げたように見えるのでその名が付けられたとも言われています。
 
 昔、岩手県の細野に住む小田島某が非常に重い病に罹り、数多くの医者を喚んだが一
向に快方に向かわないで苦しんでいたが、ある時、地蔵岩の神様を夢に見て願を掛けた
ところ、忽ち快愈したと言います。
 その時、お礼にと岩に頭巾を被せたところ、あかね七反を要したと言われています。
 その後、新しい道路が対岸に出来たり、鉄道が開通したりして、地蔵岩の許を通る人
も少なくなり、それと共に地蔵岩の事を語る者もなくなり、秋の美しい景観を見て、た
またま地蔵岩の名が口に出される程でした。
 
 ある時、村人の一人が近くの野原で作業しながら、昔の盛んであった地蔵岩のお祭り
を想い、今は見る影もない薄れた様を嘆じて、「若し自分に果報を授けてくれたら、昔
のようなお祭りにしてやりたいものだ」と独りごとを言ったところ、数日して長牛の者
だという巫女が訪れ、「あなたは神様にすがられている。この神様を祀ると寿福が授か
る」と言い残して立ち去ったという。
 その村人は一体何のことだろうと考えたが、数日前のことを思い出し、早速地蔵岩の
周辺を切り払い、苗代上がりの旧暦三月二十四日を祭日と決めて、近隣を語らい山菜料
理を好物に祭典を行ったという。
 以後この村人は金廻りも良くなり、無病長寿という果報を授かったという。
 今、祭神になっているのは不動明王と地蔵尊であるが、鳥居は鷹巣神社と記している。
地蔵様に鳥居とは何か不似合いなものに感ずるが、神仏混合時代の名残りとして珍しい。
 
 
1500地蔵岩
 
                    参考:鹿角市発行「陸中の国鹿角の伝説」
 
 昔、岩手県の細野と云う処に、小田島某と云う人が居りました。ある時、重い病気に
罹って方々の医者様から診て貰いましたが、何としてもよくなりませんでした。毎日苦
しみ続けていたある晩バンゲに、その人は小豆沢の地蔵岩ジゾウイワと云う神様の夢を見ま
した。
 そこで、その人は早速次の日から、その地蔵岩の神様に、
「何とかして病気を治して給えタモレ」
と、毎日願ガンを懸けて拝みました。それから何日も経たないうちに、あの切セツなかった
大病は嘘みたいにすっかり良くなってしまいました。
 その人は喜んで、早速この地蔵岩の頭に、お礼に赤頭巾アカズキンを作って被せて上げま
した。その時、茜アカネの布地ヌノジが七反もかかってしまった位の大きな頭巾でした。
 それから、この地蔵岩はご利益ゴリヤクある神様だと評判になり、遠くからも拝むために
来る人がいっぱいおりました。また、この下を通っている昔の鹿角街道を歩く人達も必
ず立ち止まって、旅の安全とか商売繁盛とか病気快復や、家内安全のことをお願いして
拝んでいました。
 
 小豆沢の村の人達にも信仰する人がいっぱいいて、お祭りをしたりして、昔は大変賑
やかでした。
 そのうちに、新しい道路が出来たり、汽車が通るようになってから、湯瀬渓谷の景色
の一部として眺められるようになってしまって、昔のような賑やかさはなくなってしま
って、その辺りも段々荒れて来ました。
 
 ある時、その近くの人が野良仕事をしながらこの地蔵岩を見て、ヒョッと昔賑やかで
あった地蔵岩のお祭りのことを思い出して、
「昔、あんなに賑やかにお祭りしたり、拝む人もいっぱいおったのに、本当に寂れてし
まったものだ。もし、私に果報カホウが授かれば、昔のようにお祭りして上げたいものだ」
と溜息タメイキを吐ツきながら独り言を言いました。
 それから数日して、その人の処に長牛ナゴシの者だと云う巫女ミコが訪ねて来て、
「あなたは、神様に縋スガられている。この神様を祀ると寿福ジュフクが授かる」
と、変なことを言って、行ってしまいました。
 
 その人は、初めは何の事だか、さっぱり分からないで、いろいろと考えているうちに、
数日前に地蔵岩のことで独り言を言ったことを、ヒョット思い出しました。
 そこで、その人は早速地蔵岩の辺りを綺麗キレイに刈り払って、旧暦の三月二十四日をお
祭りの日と決めて、隣り近所の人達にも呼びかけ、お餅や山菜料理などを拵コシラえて上げ
申し、拝みました。みんなで飲み食いし、賑やかにお祭りをしました。
 その後、この村の人達は金回りも良くなったり、無病息災で長生きするなど、いろい
ろ果報が授かったと云います。
 
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