1204狐キツネの話(谷内)
 
                    参考:鹿角市発行「陸中の国鹿角の伝説」
 
〈その一〉
 昔のことです、良くない狐が居て、よく騙ダマされたと言います。
 まず、岩崎のトウゴロ、かぢか沢のカネコ、とさが沢のトサコと言えば、狐に騙され
た人の話ですが、谷内・夏井の人達もよく騙されたものです。
 晩バンゲになれば、岩崎の辺りに、ポツンと狐火の明かりが点ツいて、見ているうちに
火が二つになり、三つになり、五つ六つになって、段々と増えて行くのでした。
 そのうちに、一斉に見えなくなったり、おやおやと思っているとまた一つ点いて、今
度は上へ、下へ、右へ、左へと動き出すのです。
 よくもあのような芸当で出来たものです。
 
〈その二〉
 谷内タニナイの下シモのかぢか沢では、何人騙されたか、数えきれない程だと言います。
「湯へ入っている」
と言いながら、裸で苗代ナシロへ入っている人だとか、歩いていたら目の前に山が出来たた
めに、それを押して下の薮ヤブへ落ちて目を醒ました人だとか、道を歩いているとき急に
暗くなったために、
「さては、狐の野郎め、俺のことを騙しているな」
と気付いて、度胸を決めて、どっかり座ったまでは良かったが、煙草を一服する気にな
って、煙管キセルを見失って、道端をあっちゃこっちゃ手探りで探していた人も居て、まず
面白い話もあるものです。
 
〈その三〉
 狐に騙された話はいろいろあるけれども、その中に笑ってばかりいられないような話
もあるのです。
 五十年も前の話ですが、巡査(警察官)が、蛇の目笠を差した裸の女オナゴが赤ん坊の
ことをギャァ、ギャァと泣かして抱いて来たのと行き会って、びっくりして長嶺ナガミネま
で息を切らして逃げてきたと云うこともあったのです。
 
〈その四〉
 人のことを騙かす狐火も、呪マジナいで消すことが出来るのです。
 狐火を見たら片腕を曲げて、面ツラの上に挙げて、
「犬のくそト、ト、ト、馬のくそト、ト、ト」
と、三回繰り返して、ト、ト、トの時、唾ツバを吐ハくのです。
 そうすれば、狐火が消えると言います。
 儂等ワシラの場合トキ、よくやったものですが、本当に消えたものです。
 
〈その五〉
 また、狐に騙されないためには、「おかしい」と思ったとき、
「狐、狐、何処ドコかの稲荷さんへ教えるぞ」
と言えば、暗くなったときには明るくなり、騙されて何か見えても、すぐ消えてしまう
のです。
 やっぱり、狐はお稲荷さんの遣ツカわれものなのでしょう。
 岩崎のトウゴロ、かぢか沢のカネコ、嫁に行った話、また、この次にしましょう・・・・・

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