[詳細探訪]
 
                  参考:太宰府天満宮学業講社発行「菅家後草」
 
                    本稿は、新字体に準拠しました。
                    本稿中「公」とは、「菅原道真公」のこと
                   です。
                    なお、この詩は便宜上五段に分けて解説さ
                   れています。           SYSOP
 
110〈哭奥州藤使君〉− 奥州の藤使君トウシクンを哭コクす
 
(一)
家書告君喪     家書君が喪モを告ぐ
約略寄行李     約略ヤクリャク行李カウリに寄す
病源不可医     病源医すべからず
被人厭魅死     人に厭魅エンミせられて死す
 
 陸奥守藤原滋実が任地で死んだとの便りに接し、その人物を愛していた公が悼んで詠
った詩である。滋実の没したのは、昌泰四年とあるのみで月日を明らかにせぬが、本詩
中の句から考えると、四月頃の事と思われる。四十韻八十句の長詩ゆえ、便宜五段に分
けた。
 
 家郷からの便りが届いた。太平洋の孤島に故国の慰問袋を手にするよりも嬉しい。だ
が今度の便りは、ただ嬉しいだけではなかった。
 藤氏の一族ながら、その性の清廉剛直を愛し、陰に陽に庇護していた陸奥守藤原滋実
が、現地で死んだとの旨が知らせて来ている。然も普通の死でしない。何でも部下から
怨殺されたらしい。部下から殺されたんでは、防ぎようはなかったであろうと思う。
 
 滋実は流された身ではないが、東の果ての国に赴任していた。自分は流されてこの西
の果てにいる。境遇が似てないでもない。自分の信念に頼り過ぎると云う、性格的に共
通したものもある。殺されたのは他人事ヒトゴトでないと考える。
 この詩が一部激越な口調を帯びているのは、親友滋実を悼む外に、この気持 − 換言
すれば、正しいことが通らない社会への忿懣もあったであろう。
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