52 能「錦木ニシキギ」
 
「錦木」
●あらすじ
 狭布の里を訪れた僧の前に、細布を持った女と錦木を持った男が現れる。その男はこ
の辺りの風習で、男性は好きな女性の家の門に錦木を作って立て、女性は逢おうと決め
たらその錦木を家の中に入れ、逢うまいと思ったらそのままにしておくことを話す。そ
して、三年間錦木を立て続けた男の塚に僧を案内し消えていく。亡霊の姿で現れた男は
機を織る女の住まいに錦木を持っていく場面などを見せ、舞をまって朝方姿を消す。
 
●ポイント
 能にはこの錦木の様に、前後二場にわかれているものが多くあります。後半の途中か
ら恋しい女性の家の門を叩くが入れてもらえないので、一晩中座り込みをし、明け方に
すごすごと帰っていく・・・・・。この辺はわりとリアルに表現されます。僧の弔いにより、
生前かなえられなかった思いをあの世で遂げた男は、喜びの舞(黄鐘早舞)を舞い、夜
明けに僧の夢が覚めるとともに消えてゆきます。
 男の未練たらしさと言うよりは、愛する気持ちの強さ、不屈の精神が主題となってい
ます。
 
参考リンク[能楽四本柱]
 
 
〈片山能〉
「錦木」
 諸国一見の僧が狭布の里に着くと、夫婦とおぼしき錦でつつんだ木をもつ男と、白い
細布を持つ女がやって来る。男は恋する女の家の門に錦木を立てる習わしを語り、三年
間、錦木を立て続けた男の事をのべ、そのしるしの錦塚に僧を案内するや、二人は消え
失せる。
 僧が経を読んで回向していると、男と女の亡霊が現れ、実らずに終わった恋の恨みを
語るが、僧の回向で今宵二人が会えた事を喜び、舞を舞い、なおも錦木を立て、細布を
織る所作をし、すべての事は今や夢の中にしかないというや、野中の露と亡霊は消え、
風の音が残るのであった。
 
 錦木伝説をもとにし、かなわぬ恋の悲しさを主旋律に、人の心の真っすぐな、つらぬ
き通す美しさを、訴えかける古体の能である。 
※上演時間 約1時間30分
 
参考リンク[片山家能楽・京舞保存財団]
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