06a 石燈籠の読み方(要点)
〈細部の読み方〉
細部の読み方とは、石燈籠の構成部分の読み方、その構成部分の形とか装飾とかの細
部の読み方です。
時代的には鎌倉時代以降の、基本型石燈籠に関する、細部の読み方(説明)について
述べます。
1 格狭間コウザマ
格狭間とは、曲線の習合からなる装飾の一種のことです。横長の長方形の区画内にあ
って、上部が火頭カトウ曲線、下部が椀ワン形です。わが国では古くから、建築や彫刻の台座
の側面に用いられています。石燈籠では基礎や中台の側面・火袋側面の下区などに用いら
れ、時代の特色を非常によく表しています。時代の鑑別のためには最初に注目し、そし
て、全体を見た後に再び検討すべき細部です。
格狭間は、柱や束に上から加えられる力に対してそれを支える力を、柱や束を補強す
る形で表現したものです。格狭間を縦に半分に割って背中合わせに並べますと、高坏
タカツキの外郭のような形になります。高坏の外郭も、一本の支柱によって物が盛られる皿
部を安定的に力強く支えるために出来た形です。
鎌倉時代の格狭間は本格的で力強い感じですが、南北朝時代には内部の装飾文様が甚
だ賑やかに、室町時代にはどことなく弱々しくなり、織豊時代には新しい飾りも現れま
した。江戸時代になると、格狭間以外の装飾が諸側面を飾るようになりました。
2 蓮弁レンベン
蓮弁は主として基礎の上端、中台の下端、宝珠の請花などのほか、中台の上端や火袋
の円窓周囲にも用いられます。また蓮弁には単弁と複弁の二種あります。
平安時代以前の古い石燈籠はほぼ単弁であり、鎌倉時代以後は単弁と複弁とが見られ
ます。
3 基礎
基礎の読みどころとしては、平面の形・幅に対する高さの比率、側面飾り、反花の配し
方や受座の作り方などが考えられます。
基礎の高さは、時代が下がる程高くなる傾向があります。鎌倉・南北朝時代では、幅の
三分の一位の高さで安定的でしたが、織豊・江戸時代のなると、幅の二分の一のものが多
くなります。基礎の下にある基壇は、鎌倉・南北朝時代ではせいぜい一段ですが、江戸時
代になると二段・三段、そして四段・五段のものも現れました。
4 竿
基礎が六角形でも八角形でも、竿はあらゆる時代を通じてほぼ円柱状です。四角型の
石燈籠の竿は原則として四角柱ですが、織豊時代からは円柱竿が稀に用いられています。
円柱状の竿には、原則として上中下に節があります。
四角柱状は平凡ですが、側面に輪郭、その中に浮き彫りを施したものが例外的な南北
朝時代に現れますが、その殆どは江戸時代のものです。
5 中台
基礎を伏せたような中台の読み方は、基礎の読み方とよく似ています。つまり平面の
形・大きさ・側面飾り・下端の蓮弁の配し方・上端受座の作りなどが、読みどころです。
平面形は、古式な蓮台式を除くと、ほぼ型(石燈籠基本型)と一致しています。大き
さは、江戸時代に分厚いものがあると云える程度です。側面飾りは、基礎のそれとよく
似た傾向ですが、基礎より人目に付きやすい部分なので、余計に気が配られています。
下端の蓮弁は、基礎の反花(複弁が多い)に対照させて単弁にするのが普通です。とこ
ろが、織豊時代以後特に江戸時代になると、この使い分けがはっきりしなくなります。
上端の受座は一段か二段になっていますが、鎌倉時代末期から南北朝時代には、段形の
周りに細かい蓮弁を刻むものもあります。
6 火袋
火袋は石燈籠の最も大切な構成部分なため、構造も装飾も複雑で、それ故に最も壊れ
やすい構成部分なのです。奈良・春日大社に、木製火袋の四角型石燈籠(お間型)が沢山
ありますが、その火袋は、元来石であったものが壊れて、後で補われた(後補)もので
す。たとえ石造の火袋が備わっていても、後補である場合が少なくありません。現在、
平安時代以前の火袋の遺品は一例もありません。平安時代以前は恐らく八角形で、四方
に火口、他の面は無地か何かの図柄のある壁であったと推測されます。
火袋の読みどころとして、平面の形、石燈籠全体中に占める大きさ、火口や窓をどの
ように穿ウガつか、他の側面、つまり壁をどのように飾るか、と云ったことが挙げられま
す。平面形は、石燈籠の型とほぼ一致し、幅と高さもあらゆる時代を通じてほぼ同比率
のものが多いようです。
石燈籠全体、特に中台や竿の幅に対する火袋の幅は、時代の下る程小さくなります。
例えば六角型の場合、鎌倉・南北朝時代の火袋の幅は、中台幅の三分の二以上、竿の幅の
一倍半位ですが、織豊・江戸時代になると、中台の四分の三、竿の幅と同じか、時にはや
や小さ気味と云ったものもあります。
7 笠
笠の平面形は、ほぼ石燈籠の型に一致します。他の構成部分に比しての大きさは、時
代が下がる程大きくなる傾向です。全体としての形と細部構造、特に軒回りの具合や蕨
手のある場合はその形、などが主な読みどころです。なお、蕨手は、八角形や六角形に
は有り、四角形には無いのが普通です。
笠の幅は中台よりも大きく、基礎にほぼ一致しますが、織豊時代頃からは基礎より大
きなものが造られております。大きな蕨手が外に突き出ているのは、ほぼ江戸時代のも
のでしょう。笠の高さは室町時代までのものは低く、尾根の反りも穏やかです。
笠の大きさや形の如何は、石燈籠全体の形に大きな影響を与えます。笠も宝珠や火袋
に次いで、失われたり壊れたりしやすい構成部分です。軒の隅を欠いたものや、蕨手付
きでは蕨手の失われた遺品をよく見かけます。
8 宝珠
石燈籠の頂上を飾る宝珠は、最も失われやすい構成部分です。たとえ備わっていても、
五輪塔の空風輪、その他石塔の宝珠であったり、後補のものであったりする場合が少な
くありません。
宝珠の読みどころとして最も大切なのは、宝珠そのものの形や大きさです。請花を伴
っている場合、その蓮弁も読みどころとなり、また宝珠と請花間の細まり(欠首カキクビ)
も看過出来ません。
まず全体に対する大きさは、年代が下る程小さくなり、然も丈が高くなる傾向です。
請花付きのものでは、欠首も長くなり、かつ請花が宝珠よりも大きくなったりします。
この傾向は織豊時代から現れ始め、江戸時代に入っていよいよ著しくなります。請花付
きの場合、宝珠と請花を一石で造りますが、稀に別石のものもあります。また、鎌倉・南
北朝時代の京都並びにその隣接地方では、請花を笠の上に作り出す例もあります。
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