04 石燈籠の構成
参考:誠文堂新光社発行「石燈籠新入門」
〈基本型の構成と部分の名称〉
一石に点火施設としての孔を穿ウガっただけのものから、いろいろな形の部分を何石も
積み重ねたものまで、石燈籠の構成は多種多様ですが、発生や展開過程を考慮すると、
基本的な型タイプが考えられます。これを「基本型」と云います。基本型の構成と構成部
分の名称は、下の方から順に次の通りです。
1 基礎
基礎とは最下にある構成部分で、地輪チリンとも云います。石燈籠全体が水平になるよう
に、下になっている面(下端シタバ)を地面に接しています。上端ウワバの中央に、上の構
成部分(竿)を受けるための座(受座ウケザ)があり、その受座の周辺上端いっぱいに、
下向きの蓮弁レンベンが刻まれています。このような下向きの蓮弁を反花カエリバナと云いま
す。この反花とは別に、受座の縁フチに上向きの小さな蓮弁の端(弁端ベンタン)を刻むもの
もあります。
上から見た基礎の形(平面形)は、四角・六角・八角などの正多角形又は円形です。基
礎の側面は何も刻まない(無地)ものもありますが、輪郭で以て一区或いは二区に分け、
更にその中に複雑な曲線からなる格狭間コウザマその他の装飾文様を刻んだりします。ま
た、自然石や切石の上端に反花と受座に刻むだけの基礎もあります。この場合、特に側
面と云うべき部分が無いことになります。基礎は文字通り石燈籠全体の基礎なので、下
を土や石でしっかり固められています。特にその部分が壇状になっているものを基壇
キダンと云い、二重、三重のものもあります。
なお、反花であろうが何であろうが、蓮弁には単弁タンベンと複弁フクベンの二種がありま
す。一葉の蓮弁の隆起部が一つのものを単弁と云い、二つのものを複弁と云います。一
見一重・八重の区別と間違いやすいので注意すべきです。たとえ一葉の蓮弁が二重、三重
であったり、巡りに縁取り(複輪)があっても無くても、中央の隆起部が一つであれば
全て単弁です。単弁には隆起部分の無いものがあり、これを特に素弁ソベンと云います。
また、単弁・複弁を問わず蓮弁と蓮弁との間にある小さな弁を小花コバナと云います。
2 竿
竿は基礎の上に立つ柱状の構成部分で、重い上の主体部を支えます。他の構成部分の
平面形が八角や六角の場合でも、竿の断面はほぼ円形(円柱状)です。しかし、他の構
成部分が四角の場合は竿も四角(角柱状)で、然も側面は上から下までのっぺらです。
一方、竿が円柱状のものでは、最上部と最下部、それに中央部に、ぐるりと巡らされた
隆起帯のあるのが普通で、これを節フシと云います。中節ナカブシが文字通り竹の節のような
ものもあり、半球形をくっ付けて並べたようなものもあります。後者を珠紋帯ジュモンタイ或
いは連珠紋と云います。
なお、書いたり刻んだりした製作の目的や人名・年月日などを銘文メイブンと云い、石燈
籠の場合、銘文があるとすれば竿の側面にあります。
3 中台
中台は竿の上に載っている、基礎とは対照的で、丁度基礎を伏せたような形の構成部
分です。しかし、基礎より小さいのが普通です。中台の下端の中央に竿の受座、その周
囲に上向きの蓮弁があります。この蓮弁は概ね単弁で、複弁の多い基礎の反花とは対照
的です。上端には上の構成部(火袋)の受座が作り出されています。平面の形や側面の
具合は、基礎のそれに準じます。
なお、横から見た場合(側面観)、蓮弁が上まで伸びていて、恰も蓮台レンダイのような
形のものもあります。このような中台を特に蓮台式と云い、古い石燈籠によく見られま
す。
4 火袋
火袋は中台に載る点火施設で、石燈籠の主体的構成部分です。火袋は他の構成部分に
応じた四角・六角・八角などの低い角柱状物で、上から三分の一位まで空洞になっていま
す。四面から八面ある側面は、輪郭で以て上中下区(上下区が狭く中区が広い)に分け
られています。そのような一側面、或いはその反対側との二側面の中区いっぱいに入口
のようなものが空けられています。これを火口ヒグチと云います。他の側面の中区は丸い
孔(円窓マルマド)があったり、色々な浮き彫りがあったり、無地であったりします。
上区は断面V字状の横線を四、五本刻む場合が多く、これを連子レンジ(横のものを横
ヨコ連子、縦のものを竪タテ連子)と云います。下区は中台や基礎の側面に応じて、格狭間
その他の装飾を施します。
火袋の有無が、石燈籠であるかどうかを決定するのです。従ってその構造も複雑で、
かつ色々な装飾が施されています。この他の装飾としては、円窓の周囲を蓮花紋で飾っ
たり、窓の形を変えたり、側面の区画に凝ったり、中区の浮き彫りに凝ったりします。
なお、内部に段のあるものが多く、更にその上に燈明皿受を作り出すものもあります。
5 笠
笠は、火袋の上の屋根に当たる構成部分です。平面形は、他の構成部分に応じて四角・
六角・八角など色々です。六角・八角のものでは、大概屋根の隅に棟(降棟クダリムネ)が刻
み出されており、その端が軒のところで上に卷き上がっています。そして、軒の隅の上
に蕨ワラビのような形の瘤コブが出来ています。これを蕨手ワラビテと云います。この蕨手は
屋根の飾りの一種で、神輿シンヨ・ミコシに見られるように外へ出ているべきものですが、石燈
籠ではそれが出来ないのです。ただし蕨手は四角形のものには原則として無く、また六
角・八角形のものでも無いものがあります。
屋根の形は、上から見ると、笠の形の四角・六角・八角に応じて、それぞれ四注・六注・
八注などですが、頂上から軒先までの屋根の流れに、次の四種があります。
その一が普通の屋根のような直線、その二が寺院の屋根のように中央が凹んでいるも
ので、これを「照テり」と云います。その三がその二の反対で、蝙蝠傘コウモリガサのように
中央が盛り上がっているもので、これを「起ムクり」と云います。
その四がその二とその三の合体、即ち上の方が起りで下の方が照るもので、これを「
照り起り」、或いはその形が波状であるところから「波形」とも云います。石燈籠で一
番多いのは、この「照り起り」です。
6 宝珠ホウジュ
宝珠とは、笠の頂上を飾っている葱花ソウカ状の構成部分です。葱花屋根の変化か蓮蕾の
変形かと云われるもので、塔など方形ホウギョウ造りの建築や石塔類の頂上を飾っているも
のと同種です。ただし、本当に宝珠だけのものと、下部に上向きの蓮弁を付けた部分(
請花ウケバナ)を伴うものと二種があります。
以上のように、基礎から宝珠に至る構成部分を積み重ねるに当たって、古いものでは
主要箇所(基礎と竿、笠と中台、笠と宝珠)に臍ホゾと臍穴を作ってしっかり嵌ハめ込ん
でいます。新しいものは積み重ねてあるだけなので、地震や風や雪で簡単に倒れてしま
います。
〈変化型の構成〉
基礎・竿・中台・火袋・笠・宝珠が、別石でなくとも備わっていて、地上に据え置く方法で
立てられているのが基本型です。この基本型に属しないものは、歴史的にほぼ基本型の
変化したものと考えられます。従って、基本型に属しないものを全て「変化型」と云い
ます。変化型の多くは、基本型のある部分を省略したり、基本型に新たな部分を付け加
えたりしたものです。
火袋だけは省略出来ませんが、それにしても次第に変形して来ています。省略されや
すいのは基礎、次に笠と宝珠です。極端な場合は、火袋以外の全てを省略したり、一体
化したりして、いわゆる一構成部分からなる石燈籠もあります。
付け加えられる構成部分として、第一に、基礎を兼ねた一本から四本の脚が挙げられ
ます。第二に、塔のように何層も重ねる笠、第三に、燈籠を高くするための二重・三重、
時には四重の基壇が挙げられます。
何れにしても、基本型で用いる名称でほぼ通用します。なお、省略されなかった構成
部分と雖も、大なり小なり基本型に比べて変形しているのが、変化型の特色です。
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