03 石燈籠の見方
 
                    参考:誠文堂新光社発行「石燈籠新入門」
 
〈石燈籠の見方〉
 石燈籠を石造美術として見る場合、石燈籠が見やすい状態に置かれていればそれで十
分です。神社の参道両脇にぎっしり並んでいようが、仏殿の正面にあろうが、庭園や博
物館にあろうが、一向に構いません。但し、移されたり動かされたりしているかどうか、
もし移されているならば、元の位置や状況を可能な限り把握しておくべきです。特に学
問的には、移動されているものと移動されていないもの、元位置の明らかなものと明ら
かでないものとは、大きな相違があります。ともあれ、置かれている場所を選ばず見る
見方を私(筆者京田良志氏)は「近付いて見る見方」と云っています。石造美術として
の見方、つまり本書における見方もほぼこれです。
 
 それでは、近付いて何を見るのかと云うと、次の二つを見ると云えます。一つは、「
形を見る」のです。造られた時代や目的に関係なく、全体や部分の形状や釣り合いの善
し悪し、細部の彫成具合の優劣などを見るのです。つまり、造形美術として石燈籠を見
る訳です。次が、造られた「時代の新古を見る」(時代の鑑別)のです。石燈籠に限ら
ず、文化財はたとえ形の良くないものであっても、古いものほど珍重されます。それは、
古いものほど遺る率が少なく、かつ再生産の不可能度も高いからです。従って時代の鑑
別は大切なことです。
 昔は、まつわる口碑コウヒや石の欠け具合、風化の度合や苔の付き具合によって時代の鑑
別がなされました。それらの方法は、石造美術としての研究が進むに連れて、全く当て
にならないことが分かりました。
 
 私共は、社会の子であると共に時代の子でもあります。
 例えば文字を一字書いたとしても、日本人の字を書いていると共に昭和(今現在)の
字を書いています。同様に明治時代の人は明治の字を書き、元禄時代の人は元禄の字を
書いたのです。筆跡の研究によって、昭和・明治・元禄位の区別ならばほぼ出来るように
なっています。書かれている文字が画の多いものであればある程、字数が多ければ多い
程、更に文章になっていて、それが長ければ長いほど容易に鑑別出来ます。書かれた時
代独自の姿、いわば癖クセ(様式)が掴みやすいからです。
 石燈籠の時代の鑑別もこのような方法で行います。例えば石燈籠に製作年月日が刻ま
れていても、それを信じて良いものかどうかの検討も行われなければなりません。また
古いものをそっくり真似て造ったものを見破らなければなりません。更に、同じ時代の
石造美術であっても、それが造られた場所や、造った人によって、その地方やその人独
自の姿に成る筈です。
 造られた時代に限らず、出来れば、場所や作者までも見分けなければなりません。著
者は、これらの行為を「石燈籠を読む」と云っています。
 
 ところで、以上のような「近付いて見る見方」の他にもう一つ「離れて見る見方」が
あります。例えば、庭園の石燈籠ですが、近付いて見た場合に形もよくなく、時代も新
しいものであっても、離れて見ると、景物として結構生きている、と云うものもありま
す。神社や寺院の石燈籠についても、ある程度同様なことが云えます。この場合、石燈
籠の位置や状況、それに見る場所などが大切です。尤も、「近付いて見る見方」によっ
て立派なものは、「離れて見る見方」によっても立派です。ですが、離れて見た場合、
位置や状態や環境が、折角の立派さを活かし切っていない、或いは半減させてい例もあ
るので、「離れて見る見方」も大切です。石燈籠の鑑賞は、「近付いて見る見方」が主
で、「離れて見る見方」が従です。
 
〈時代の分け方〉
 「近付いて見る見方」の中心は、「時代の鑑別」です。「鎌倉時代」とか「室町時代
」とか云っても、それぞれ何年から何年までなのか、使う立場や使う人によって区々
マチマチです。本書では、西暦を百年ずつに区切った世紀をよく用いますが、石燈籠の様式
は、百年ごとにうまい具合に変わるものではありません。それで本書では、石燈籠その
ものについては、既に用いられている文化史上の時代区分を主として用います。世紀と
時代区分との関係、並びに順序は次の通りです。
 
 飛鳥時代 六世紀中葉から七世紀中葉まで
 奈良時代前期(白鳳ハクホウ時代) 七世紀中葉から八世紀初めまで
 同   後期(天平時代) 八世紀初めから八世紀末まで
 平安時代前期(貞観ジョウガン時代) 八世紀末から九世紀末まで
 同   後期(藤原時代) 九世紀末から十二世紀末まで
 鎌倉時代 十二世紀末から十四世紀前半まで
 南北朝時代 十四世紀前半から十四世紀末まで
 室町時代 十四世紀末から十六世紀後半まで
 織豊ショクホウ時代 十六世紀後半から十七世紀初めまで
 江戸時代 十七世紀初めから十九世紀後半まで
 
 ところで、各時代の中間で、然も製作年次のはっきり分かるものを、何れに属させる
が問題です。何れに属させてもよいと云えますが、厳密には、その様式によって決定す
べきです。ですが、ひとまず機械的に振り分けてしまうことも考えられます。その場
合、次の年次を各時代の初年とします。
 
 飛鳥時代 五五二年(仏教公伝「日本書紀」)
 奈良時代前期 六四五年(大化改新)
 奈良時代後期 七一〇年(奈良遷都)
 平安時代前期 七九四年(平安遷都)
 平安時代後期 八九八年(醍醐親政)
 鎌倉時代 一一八五年(平家滅亡)
 南北朝時代 一三三三年(鎌倉幕府滅亡)
 室町時代 一三九二年(南北朝統一)
 織豊時代 一五七三年(室町幕府滅亡)
 江戸時代 一六一五年(元和偃武ゲンナエンブ)
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