02 石の華/石燈籠とは
 
                    参考:誠文堂新光社発行「石燈籠新入門」
 
                    本稿は、誠文堂新光社発行の「石燈籠新入
                   門」(昭和53年6月第7版)を参考にさせてい
                   ただきました。
                    石燈籠は、神社仏閣の参道や境内には欠か
                   せない「一対の彫像」です。また、日本庭園
                   を装飾する「一つの芸術品」です。
                    散歩や旅行の際には、本稿を想い出して、
                   「石燈籠探訪」を楽しんで見て下さい。
                                    SYSOP
 
〈石燈籠とは何か〉
 「石燈籠とは何か」と云う問いに対して、「石で創った燈籠」と云う答えがすぐ出て
来ます。しかし、「石」と「燈籠」のことを幾ら詳しく説明しても、石燈籠の詳説には
なりません。石燈籠の「石」は燈籠を離れたものではなく、同じく「燈籠」も石を離れ
たものではありません。石燈籠は何処までも「石燈籠」なのです。
 
 神社や寺院の境内ケイダイに行儀よく並んでいたり、庭園に何気なく置かれていたりする
「点燈施設のある半永久的石造物」、これが石燈籠です。屋外に雨晒しにされており、
特別な事情のない限り、屋内に置かれたり覆いを懸けられたりしません。そのために立
派な屋根(笠カサ)があり、地上に直接据スえるための台(基礎)や、引き立たせるための
支柱(竿サオ)もあります。
 尤も、石燈籠ではない燈籠(非石燈籠)の中には、屋外に置かれるものもあります。
しかし、金属製など特殊なもの以外はほぼ屋内、あるいは庇ヒサシ内のものです。また、非
石燈籠の屋根は、点燈施設やその中の燈を風雨から守ると云うより、燈籠を置いてある
建物を燈から守ると云う機能を持っています。更に台や支えも、石燈籠のそれらと幾分
機能や意味が違います。釣燈や置燈籠は、初めから台も支えもありません。
 
 ともあれ「屋外のもの」と云うことが、石燈籠の大きな特色です。それでは石燈籠と
は、屋外のどんな場所に、どんな目的を持って置くものなのか、つまりどんな機能を持
っている石造物なのかについて考えて見ましょう。
 まず立てる場所として、まず神社や寺院の境内や参道が挙げられます。墓地にあった
り、街道筋にあったりするのは、その延長と云えます。次に、庭園や露地ロジが挙げられ
ます。門口や玄関先にあるのはそのまた延長と云えます。
 
 前者の神社・寺院或いはそれに準ずる場所の石燈籠は、主として次のような二つの機能
を持っています。第一は、「燈明トウミョウを安置する器具」と云う機能です。「燈明」は、
「物質が酸素と結合して熱と光を出して燃える現象」と云う点においてと「灯火トモシビ」
と何ら変わりません。ですが燈明は、神仏に献じられる或いは献じられた燈です。神仏
に燈明を献ずる供養クヨウを献燈ケントウと云います。「貧者の一燈、長者の万燈」と云う比喩
ヒユがあるように、多くの仏典に、献燈によって受ける功徳クドクの大なることを説いてい
ます。このような燈明を安置する器具と云うことにおいて、石燈籠は献燈用の燭台や燈
台と同種のものです。第二は石燈籠そのものが、神仏に供養として献ずる「物」、つま
り供物クモツの一種と云うことです。直接仏典にこそ見えませんが、献燈にはその安置施設
も付き物、と云う考え方によるものでしょう。そうでなくても、神仏前を飾る(荘厳ソウ
ゴン)ものの一種です。荘厳の功徳なら、仏典に繰り返し説かれています。とすると石燈
籠は、神仏に供える飲食オンジキ・花・香などのささやかなものかせ、塔や仏殿のように大き
なものまでと、供物であることにおいては同種のものと云えましょう。
 
 後者の庭園やそれに準ずる場所の石燈籠については、前者と違った次のような二つの
機能が考えられます。第一は実にささやかなものですが「照明器具」としての機能です。
文字通り照明しているものも無いとは云えませんが、寧ろ夜間、石燈籠の存在を示す程
度の明かりしか出さないものが多いようです。その場合、航路標識の一種としての燈台
に近い機能と云うべきでしょう。第二に、「景物ケイブツ」としての機能が挙げられます。
「景」とは、自然や庭園の眺めのことです。その景に一層の風致を添えるものが景物で
す。とすると庭園・露地の石燈籠は、景物と云うことにおいては、石塔・石橋から樹木・石
組に至るものと同列のものと云えましょう
 
 主として以上のような四つの機能の何れかを果たす目的を以て、立てられたり置かれ
たりすろものが石燈籠です。燈明具と供物の機能を主とする神社・寺院の石燈籠と雖も、
照明具・景物としての役割を果たしています。例えば、宇治平等院鳳凰堂の正面に置かれ
ている石燈籠一基は、あくまでも鳳凰堂本尊阿弥陀仏のための燈明具です。しかし結果
的には鳳凰堂一帯の景物にもなっており、また、竜頭鷁首リュウトウゲキシュの船を浮かべたと
伝えられる前池の照明や標識の役割をも、ささやかながら果たせるものです。従って、
「四つの機能の何れか」と云うより、「一つ以上を果たすもの」と云うべきでしょう。
 
 なお、四つの機能の他、照明具としての機能を除く「道しるべとしての機能」を、持
っていたり兼ねていたりするものもあります。街道筋や辻のものに多く、中には初めか
ら、石燈籠と標識を兼ねて設計されたものもあります。また、奈良春日大社の参道に延
々と続く石燈籠は、燈明具・供物のみならず、景物・照明具としての機能も考えられ、結
果的には道しるべのもなっています。
 それでは「石燈籠とは何か」を纏マトめましょう。「燈明・照明等の器具や供物、或いは
眺めに風致を添える景物として、神社・寺院・庭園などの屋外に雨晒しにして立てられる
点灯施設のある半永久的石造物」、と云うことになります。
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