205b 遊戯考[物合]
 
紅梅合
鴬のすをくひそむる梅のはな 色もにほひもおしくも有哉(藤原高光集)
 
花合
手折もて宿にぞかざす桜花 梢は風のこゝろめたさに
                     (新千載和歌集 二春 権中納言国信)
 
吹風をいとひてのみもすぐすかな 花みぬ年の春しなければ
                             (散木葉謌集 一春)
 
吹風も治れる世は音もせで のどかに匂ふ花ざくらかな(藤原光経集)
 
紅葉合
わが思ふくらぶの山のもみぢばに おとらぬものはこゝろなりけり(清原元輔集)
 
くれなゐのやしほの色はもみぢばの 秋くはゝれる年にぞ有ける(藤原清正集)
 
扇合
住の江の松のかぜをもこめたれば あふぐ扇のいつか絶せん(紀貫之集 七賀)
 
君が代をまつふく風にたぐへてぞ かへすちとせのためし也ける
沢に住たづの羽かぜに涼しきは 君が千とせをあふぐ成べし(下略)(円融院扇合)
 
同 月の心
みかさ山みねより出る月影は さほの河せの氷なりけり(大納言経信)
音羽山もみぢちるらしあふさかの 関のを川ににしきをりかく(源俊頼朝臣)
                             (金葉和歌集 三秋)
 
小筥合
君にとし思ひかくればうぐひすの 花のくしげもをしまざりけり(返歌略)(伊勢集)
 
貝合
もゝしきの玉の台の簾貝 あしやがうらに波やかけゝん
雲の上にちりぞまがへる春風の 吹あげの浜の梅の花かひ(出観集 雑)
 
風たゝで波をおさむるうらうらに 小貝をむれてひろふ也けり
なにはがたしほひにむれて出たゝむ しらすのさきのこ貝ひろいに
風吹ば花咲波のおるたびに 桜貝よるみしま江のうら
波あらふ衣のうらの袖がひを みぎはに風のたゝみをくかな
なみかくる吹上の浜の箔貝 風もぞおろすいそにひろはん
 
しほそむるますをのこ貝ひろふとて 色の浜とは云にや有らん
波よするたけのとまりのすゞめ貝 うれしきよにもあひにける哉
波よするしらゝの浜のからす貝 ひろひやすくもおもほゆる哉
かひありな君が御袖におほはれて 心にあはぬことしなき世は(中略)
今ぞしるふたみのうらのはまぐりを かひあはせとておほふ也けり(以上、山家集)
 
かひなしと何歎くらんしら浪も 君が方には心よせてん
                    (風葉和歌集 十八雑 貝合の蔵人少将)
 
貝覆カヒオホヒ(貝掩カヒヲフ)
波よするつもりのうらによる貝を ひろはぬ袖にうつせとぞ思ふ
返し
たづねきてひろはぬ浦のつらければ 袖につゝむにかひやなからん(藤原隆祐朝臣集)
 
ひしひしとつどひておほふ貝よりも たゞふたりゐてめをやろんぜむ
                           (四十二のものあらそひ)
 
くろかしのみだれてさわぐまりよりも 貝におほへる袖はなつかし
                        (四十二のものあらそひ 補遺)
 
物語合
引すつる岩がきぬまの菖蒲草 思しらずもけふにあふかな
                        (後拾遺和歌集 十五雑 小弁)
 
双紙合
しぐれつゝかつちる山の紅葉を いかに吹よのあらしなるらむ
                      (金葉和歌集 四冬 修理大夫顕季)
 
いまはたゞねられぬいをぞ友にする 恋しき人のゆかりとおもへば
                        (金葉和歌集 七恋 宣源法師)
 
かみがみ合
君がよを神々いかにまもるらん しげきめゆひの数にまかせて(中略)
嬉しさのあまのみ空にみちぬれば いとなくかみをあふぎみる哉(散木葉謌集 九雑)

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