205 遊戯考[物合]
 
                       参考:吉川弘文館発行「古事類苑」
 
[物合]
物合とは、汎く事物に就きて左右を対比し、優劣を判し、輸贏シュエイ(勝負)を決するを
云ふ。
故に其の事物は一ならず。
動物には、闘鶏(小鳥合・鴬合・鴨合・鳩合・鶉合なども)、虫合(蜘合も)の如きあ
り。
植物には、闘草クサアハセ(荊合も)、前栽合(草のかうも)、根合の如きあり。
器物には扇合(宝競も)、貝合(角合も)の如きあり。
文書には物語合の如きあり。
多くは上流の娯楽に供するに過ぎず。
其の盛なるものには、左右に各々頭あり、念人ネンジン(贔屓ヒイキ)あり、籌刺(はかりご
と)あり、奏楽あること、相撲の節等に同じく。
また歌を詠じて之をその物に加ふるあり。
此に列挙せる物合の外に、闘牛闘犬あり、競馬あり、動物部に見え、競馬あり、武技部に
見え、絵合、歌合あり、文学部に見え、琵琶合、今様合イマヤウアハセあり、楽舞部に見えたり。
 因みに今様合とは、今の流行ハヤリの歌を左右に合わせて、優劣を争うこと。
 
われぞまづねにたつばかりおぼえける ゆうつけ鳥のなれるすがたに
雲ゐとはなれさへしるや久かたの そらおどりする鳥にも有哉(弁内侍日記 上)
 
鶏も相撲に似たり相坂の 関のかち声あぐる勢ひ(古今夷曲集 八雑)
 
虫合
行すゑの名にやながれん常よりも 月すみ渡る白川の水(山家集 下雑)
 
草合
たねなくてなき物くさはおいにけり まくてふ事はあらじとぞ思
                        (拾遺和歌集 九雑 恵慶法師)
 
まけがたのはづかしげなるあさがほを 鏡草にもみせてけるかな
                   (後拾遺和歌集 二十誹諧 よみ人しらず)
 
前栽合
くさのかう色かはりゆく白露は こゝろをきてもおもふべき哉(伊勢集 上)
たがとしの数とかはみん行かへり ちどりなくなる浜のまさごを(つらゆき)
万代にかはらぬ花の色なれば いづれの秋か君は見ざらむ(藤原実頼)
                             (拾遺和歌集 五賀)
 
九重に露をおけばや花の色の 外の秋には匂ひまされる
百敷に花の色々匂ひつゝ 千とせの秋は君がまにまに(藤原清正集)
 
左方
君がためはなうへそむとつげねども ちよまつむしのねにぞなきぬる
右方
心してことしはにほへをみなへし さかぬ花ぞと人は見るとも(栄花物語 一月の宴)
 
女郎花のこゝろ
あだしのゝ露吹みだる秋風に なびきもあへぬをみなへしかな(春宮大夫公実)
きく
千年まで君がつむべき菊なれば 露もあだにはをかじとぞ思(修理大夫顕季)
                             (金葉和歌集 三秋)
 
あさなあさな露をもげなる萩がえに 心をさへもかけてみる哉(周防内侍)
おぎのはに事とふ人もなきものを くる秋ごとにそよとこたふる(敦輔王)
                             (詞花和歌集 三秋)
 
物ごとに秋のけしきはしるけれど 先身にしむは荻の上風
                       (千載和歌集 四秋 大蔵卿行宗)
 
真葛はひおぎのしげらぬ宿ならば をそくや秋の風をきかまし
                     (続古今和歌集 四秋 権大納言公実)
 
花すゝきまねかざりせばいかにして 秋の野風の方をしらまし
                      (続後撰和歌集 五秋 大蔵卿行宗)

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