12a その他の和歌集概説
 
新撰万葉集
 平安時代前期成立(序に、上巻は寛平カンペイ五年(893)、下巻は延喜十三年(913)と
 の記載がある)。詩歌集。二巻。上巻菅原道真撰、下巻撰者不明。上下巻とも四季・
 恋 の五部に分け、上段に万葉仮名で和歌を、下段に七言絶句を対応させて記す。歌
 数二百四十二首。当時の歌合わせなどを材料としたらしい。勅撰・私撰歌集や和漢朗
 詠集の先駆をなす。別名、菅家カンケ万葉集。
 
草庵集
 南北朝時代頃成立。私家集。十巻。頓阿トンナ自作自撰。四季以下八部に部位し、続集五
 巻と合わせて二千余首の短歌と雑体・連歌百韻などを収める。鋭さ・清新さに欠ける
 が、二条家風の平明穏健な歌風を示し、彼の歌論とともに、頓阿や二条家末流の歌風
 を知るに貴重。
 
草根ソウコン集
 文明五年(1473)成立か。私家集。十五巻。正徹作。正広編。師正徹の没年前三十年
 間の歌二万余首を年代順に収める。歌風は定家の有心体に帰着することをねらい、清
 新な情緒を持つ。巻十五は後人の追補らしい。
 
曽丹集
 平安時代成立(年時不明。一部は拾遺集以前に成立か)。私家集。一巻。曽禰好忠ソネノ
 ヨシタダ作。撰者不明。毎月集・百首・源順百首の三部から成り、好忠の歌約四百八十首
 を含む。言葉の自由な駆使と自然の客観的表現に特色があり、革新的清新な趣が見ら
 れる。
 
田辺福麿サキマロ歌集
 田辺福麿編の歌集。現存しないが、万葉集編集の材料として使われ、其処に引用され
 た長歌十首、短歌二十一首は、すべて自作と考えられる。
 
長秋詠藻チョウシュウエイソウ
 平安時代末期成立。私家集。三巻。藤原俊成自作自撰。短歌七百二十九首・長歌三首
 ・反歌一首を収録。俊成の幽玄体の典型を見うるのはもちろん、釈教歌中の極楽六時
 讃サンの断片は和讃史上注目すべきものである。
 
菟玖波ツクバ集
 文和ブンナ五年(1356)成立。連歌撰集。二十巻。二条良基撰。仮名・真名両序のほか、
 部位も古今集にならう。古代から当代までの天皇以下庶民に至る五百三十人の二千百
 七十余句を選び、前句・付け句の付け合いだけながら当代までの連歌の集成として貴
 重。準勅撰で、ここに連歌道が確立した。
 
風葉フウヨウ和歌集
 文永ブンエイ八年(1271)成立。歌集。二十巻(巻十九、二十散逸)。撰者不明。後嵯峨
 天皇中宮姑子ヨシコの命で、当時存在した物語中の和歌を抜き出し、勅撰集の体裁になら
 い、四季以下に分類したもの。歌数千四百八首。所収物語中約百八十は、すでに散逸。
 散逸物語・現存物語原形の研究の参考資料となる。
 
夫木フボク和歌抄
 延慶エンキョウ三年(1310)頃成立か。歌集。三十六巻。藤原長清撰。万葉集以後の和歌集
 ・私撰集・歌合わせ・物語歌などから、勅撰集に漏れた歌約一万六十余首を、四季・
 雑の部位で収録。語彙ゴイ・句法の自由な歌、奇歌なども含み、また現存しない歌集・
 物語の歌もあって、和歌史研究上の貴重な資料。
 
堀河院百首
 康和コウワ五年(1103)一次成立。翌長治元年(1104)確定。百首歌集成。源俊頼の主導
 による匡房・基俊ら十六人、各人一題一首、四季・恋・雑の分類で百首、計千六百首
 の集成。この集成は、永久四年百首(次郎百首、1116年成立)とともに平安中期以来
 の百首歌の頂点を示し、俊頼の地位が確立するなどさまざまな意義がある。正しくは、
 堀河院御時百首和歌。別名、堀河院太郎百首。
 
万代マンダイ和歌集
 宝治二年(1248)成立。私撰歌集。二十巻。撰者不明。万葉集以後当時までの歌三千
 八百二十六首を四季・神祇ジンギ・釈教・恋・雑の九部に分類収録。勅撰集に採り入れ
 た歌も見え、広範囲から選んだようだが、鎌倉期の歌人の作が多い。私撰類題和歌集
 の先駆的作品。
 
万葉集
 成立年不明、全巻完成は奈良時代の末期か。歌集。二十巻。編者は橘諸兄タチバナモロエ説
 ・大伴家持説・両者共撰説などあるが不明。全巻編集に家持は関係が深いらしい。上
 代叙情歌の一大集成。所収歌数約四千五百首(長歌約二百六十、短歌四千二百、旋頭
 歌六十三、その他)。雑歌・相聞ソウモン・挽歌に三大別されている。作者名・年代不明
 の歌が半数以上を占めるが、時代明記の歌は仁徳天皇から淳仁ジュンニン天皇天平宝治三
 年(759)の約四百五十年間にわたり、作風の変遷が見える。作者は皇族・貴族が多い
 が、地域的、階級的に広範囲に及ぶ。代表的歌人は柿本人麻呂・山部赤人・山上憶良
 ・大伴旅人・大伴家持・額田王ヌカタノオオキミ・坂上郎女サカノウエノイラツメら。表記は万葉仮名の
 方法による漢字を用い、おおむね率直な心情が吐露され、上代人の精神を具体的に反
 映して、後世への影響は甚だ大きい。
 
壬二ミニ集
 寛元三年(1245)成立。私家集。三巻。藤原家隆作。六万首の上ると伝えられる歌の
 うち、各種歌合わせの百首歌・屏風歌など二千八百二十五首(伝本により二千七百七
 十八首)を選んだもの。整然とした体裁を持つ。平淡な調べの中に清澄な美を表した
 歌が多い。別名、玉吟集。
 
李花リカ集
 弘和コウワ元年(1381)から元中ゲンチュウ六年(1389)頃の成立か。私家集。二巻。宗良
 ムネナガ親王自作自撰。比較的長い詞書きのついた八百九十九首の歌を四季・恋・雑に分
 類収録。二条家風の影響を受けた平明流暢リュウチョウな、掛け詞・縁語などの技巧も目立
 つが、真実味のあふれた力強い歌が多い。
 
六歌集
 家集集成(集成は室町時代から)。鎌倉時代初期の和歌最盛期に、歌壇の指導者であ
 った六歌人を尊んでその家集を集めたもの。藤原俊成の長秋詠藻チョウシュウエイソウ、藤原良
 経の秋篠月清集、慈鎮の拾玉集、西行の山家集、藤原定家の拾遺愚草、藤原家隆の壬
 二ミニ集の六集。

[次へ進む] [バック]