04 道具の見所
道具の見所
参考:保育社発行「茶道入門・茶道用語」
△茶室にて
正客は床の間に進み扇子を前に置いて,掛け物を拝見し,花入があれば,花入や生け
てある花を拝見し,次に風炉釜,水指などを見て,仮座に居ます。他の客も同じように
して拝見しますと,正客は定めの座に着き,以下の客もそれぞれの座に着いて,亭主の
出て来るのを待っているのです。
〈道具の見所〉
△掛け物
茶事・茶会の道具の取り合わせの中において,趣向の中心のなるものは床の掛け物で
す。まず掛け物が決められ,花入や花などが選ばれ,待合の掛け物が定められるのです。
『南方録』に「掛物ほど第一の道具はなし、客亭主共に茶の湯三昧一心得道の物也ナリ」
とあります。
室町時代までの書院茶においては宋元の唐絵が主として用いられ,草庵茶の勃興と共
に禅僧の墨跡が重んじられ,武野紹鴎の頃から古筆歌切なども用いられるようになりま
した。
茶席の掛け物であるためには,ただ名筆であると云うだけではなく,徐煕の「鷺の絵
」が村田珠光の表具において一躍有名になったように,茶席に似合った衣装が要求され
ます。また掛け物には他の道具と同様,濃茶用のもの,薄茶用のもの,両方に用いても
良いものなどの区別があります。漢文漢詩の類は濃茶に,和歌・俳句・絵賛物は薄茶に
用いられます。しかし,宋元の絵画が室町時代書院台子の茶に用いられたと云う事実も
あります。
一行書は元来墨跡偈頌ゲジュなどの摘句ですから,どちらかと云いますと薄茶の雰囲気
を持っています。
また道具には「位」のあることに注意しなければなりません。掛け物の「位」は筆者
の人格によることは云うまでもありませんが,特に天皇の書は宸翰シンカンと称し,その筆
跡は宸筆と呼んで尊んで来ました。王朝以来の伝統的文芸の担い手である公家の書もま
た重視され,その洗練された流麗な仮名の美しさは「位」の高さを証明しています。宋
元の絵画の高邁な思想性は,書院茶に重要な役目を果たして来ました。禅僧の墨跡もま
たその仏教的思想を背景とし,その修行によって陶冶された人格がその文字に滲み出て
います。
「書は人なり」と云う言葉があるように,書は決して筆先の遊びでも,技巧だけのも
のでもなく,書いた人の人格そのものを具現することを知りますと,床の間に掛けるべ
き用件は自ずから了解されましょう。
掛け物の表具には各部分に名称がありますが,本紙とは,掛け物の本体となる書や,
絵などのことです。まずその本紙を観てから,表具の各部分を見るのです。
△花入ハナイレ
取り合わせ上,掛け物と特に緊密な関係を保つのは花入です。掛け物は花入を選び,
それに似合った花を求めます。銅器には草花は向きませんし,篭には木のものばかりも
相応しくありません。
床に飾り,花を活ける器として,生け花においては花器と呼び,これを作る工芸家は
花瓶カヘイと称し,美術館などにおいては花生と呼んでいますが,茶方においては古来「花
入」が一般に用いられています。
花入には,唐銅,青磁セイジなどの中国製の磁器や,信楽,伊賀,備前などわが国にお
いて焼かれたもの,竹の筒,篭などがあります。この中,篭は風炉の季節,即ち夏季に
多く用いられます。花入にも真・行・草の区別があって,掛け物によって組み合わされ
ます。また花入は,掛け物の前に置かれるのが普通ですが,ときには,床柱や床の壁に
掛けられることもあります。花は季節の花を入れるので,洋花や,香りの高いもの,色
のけばけばしいものは避けた方がよく,入れ方も,いわゆる生け花式ではなく,自然の
姿のままを入れるようにします。
△香炉コウロ
香炉は,近来では用いられる例は少なく,追善の席において,遺影や画像の前に飾り,
卓や盆に載せて扱います。共蓋トモブタのほかに銀や唐木の火舎ホヤが添えられます。
桃山時代,名物香炉は茶室において,主着共に香を聞くことが行われ,詠歌と聞香と
茶湯とは密接な繋がりを持っていました。
△香合コウゴウ
香合は,風炉用の塗物と炉用の陶磁器とに大別されますが,兼用の貝などもあります。
小型は炭点前に,大型のものは床飾りにも用いられます。
室町時代書院台子の茶湯においては,香炉の飾りに重点が置かれ,また聞香炉モンコウロを
用いて席中において香を焚くことが屡々行われました。『君台観左右帳記クンタイカンサウチョウキ
』『御飾書』などにも香炉の記事には相当の紙数を割いていますが,香炉については,
塗物香合の十二種について記述が見られるに過ぎません。当時の書院茶に炉は未だ用い
ておられず,専ら風炉の扱いのみでしたから,今日のように陶磁器の炉用香合は採り上
げられていません。香合は台子や棚の上に羽箒ハボウキと共に飾られたりしたに過ぎませ
ん。寧ろ五具足や七具足に付属するものとして扱われていたようです。利休時代になっ
て炭点前が茶事において必ず行われるようになりますと,次第に香合の地位は上がって
来たと云えます。炭道具中最も重要な道具となった香合は,唐物のみならず,和物香合
も採り上げられ,次第にその種類も多くなって行きました。また茶匠による注文品や好
み香合も現れるに至りました。
現在は風炉用として塗物・蒔絵・瓢フクベ・貝などの香合が,炉用として陶磁器が用い
られています。貝の香合などは炉・風炉共に用いられることもありますが,練香ネリコウを
用いる場合は香合を汚さないように椿の葉を敷いて入れる習わしです。炭点前が済んだ
ことを表したり省略する意味から,香合を床に飾ることが今日では広く行われるように
なったため,一層香合に対する関心は高まったと云えます。勿論香合にも濃茶席に相応
しいものと,薄茶席用のみのものなどがあり,その区別は個々について十分考慮する必
要があります。
江戸時代末期に至り,巷間に用いられていた香合について,当時の茶人等はこれを整
理,評価を加えて優劣の判定を下し,その格付を行ったのが,安政アンセイ二年(1855)刊
の『形物香合相撲番付表』です。
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