06 楽舞考[朗詠・今様・唐楽・高麗楽]
 
[朗詠ラウエイ]
朗詠は、和漢の詩文中の雅趣ある妙句に曲節を施し、琴、琵琶等に合せて、吟唱朗詠す
るものなり。
晋(手偏+晋)紳シンシン又は文学に志ある者のみならず、遊君白拍子の如きも、宴席に於
て之を詠じ、遂に朝家の御遊にも亦之を用ゐらるゝに至りしが、鎌倉幕府以後兵乱相踵
ぎたるを以て、朗詠は漸次に衰替して、唯纔ワヅカに其の声律音調等を、楽家にのみ伝承
することゝなれり。
 
朗詠用詩文和歌
立春
年のうちに春はきにけりひとゝせを こぞとはいはんことしとやいはん(元方)
袖ひぢてむすびし水の氷れるを 春立けふの風やとくらむ(貫之)
春たつといふばかりにやみよし野の やまもかすみてけさはみゆらむ(忠岑)
                             (和漢朗詠集 上春)
 
風
花の色は霞にこめてみえず共 かをだにぬすめ春の山風(遍昭)
我せこがきまさぬ宵の秋風は こぬ人よりもうらめしきかな(好忠)
                             (新撰朗詠集 下雑)
 
[今様イマヤウ]
今様は今様歌の略称にして、中古今様とは今めかしき意にして、古格ならざる歌詠を今
様と云へるなり。
伝説に敏達天皇の時に始まれりと云へるは、妄誕なるに似たり。
而して村上天皇の頃より漸次上下に行はれ、朗詠と同じく朝家の御遊にも用ゐられしが、
後世全く衰へたり。
 
雨ふれば軒の玉水つぶつぶと いはゞや物を心ゆくまで(古今著聞集 六管絃歌舞)
 
[唐楽]
唐楽は支那楽にして、支那より我国に伝へたる楽を云ふ。
而して林邑楽、又は我国に於て擬作せる楽も、此楽調を用ゐたるものは、此楽中に収め
たり。
唐楽には壱越調以下の十二曲調備はれり。
高麗楽に対して左楽、又は左方楽と称せり。
 
青海波
をしへをくことをかたみに忍ばなん 身は青海の波に流れん(十訓抄 四)
 
[高麗楽]
高麗楽は高麗国に起り、我国に伝へたる楽を云ふ。
而して我国に於て擬作せる楽曲も、高麗楽の調を用ゐたるものは、高麗楽に収めたり。
高麗楽には壱越調、平調、双調の三曲あり。
唐楽に対して、右楽又は右方楽と称す。
 
振鉾は一に厭舞エンブとも云ふ。
凡そ舞楽の初には、必ず先づ此曲を奏す。
左方右方互に出でて舞ひ、了りて更に左右並び進みて合舞す。
一曲も亦左方右方各々一人にて舞へり、一鼓は蘇利古若しくは崑崙八仙と番ひ、師子は
狛犬と番ひて、並に左方に属すれども、其の楽調の如きは、今之を知るに由なし。
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