39 津・泊・港・関を詠める和歌
 
                       参考:吉川弘文館発行「古事類苑」
 
△船津
秋風に河浪たちぬ暫くは 八十ヤソの舟津フナツにみ舟とゞめよ(萬葉集 十秋雑歌)
 
△川津
古へゆ挙げてしはたを顧みず 天アマの河津カハヅに年ぞ経にける
久方の天の河津に舟浮けて 君待つ夜らは明けずもあらぬか(以上 萬葉集 十秋雑歌)
 
△澪標ミヲツクシ
君こふる涙のとこにみちぬれば みをつくしとぞわれは成ぬる
とをたあふみいなさほそ江のみをづくし あれをたのめてあさまし物を
住よしのほそ江にさせるみをづくし ふかきにまけぬ人にあらじな
河浪もうしをもかゝるみをづくし よるかたもなき恋もするかな(以上 袖中抄 十九)
 
みをつくし心尽くしておもへかも ここにももとな夢にし見ゆる
                         (萬葉集 十二古今相聞往来歌)
とほつあふみいなさほそえのみをつくし あれをたのめてあさましものを
                                (同 十四東歌)
君こふる涙のとこにみちぬれば みをつくしとぞわれはなりける
                        (古今和歌集 十二恋 藤原興風)
わびぬれば今はたおなじ難波なる みをつくしても逢んとぞおもふ
                     (後撰和歌集 十三恋 もとよしのみこ)
吹かぜにまかすることもみをつくし まつと知てやさしてきつらん(忠見集)
 
かは波もうしほもかゝるみをづくし よするかたなき恋もするかな
                             (古今和歌六帖 三水)
すみの江の浪に朽行みをづくし ふかき頼のしるしあらはせ(新撰六帖 三 家良)
人をみなわたすしるしのみをづくし ふかき江にこそ思ひたてつれ
                             (同 右大弁入道光俊)
七度のよしのゝ川のみをづくし 君が八千代のしるしともなれ
                         (雲葉和歌集 九賀 僧正行意)
ひろせがはわたりのせきのみをじるし みかさそふらしさみだれのころ
                         (夫木和歌抄 八夏 西行上人)
さみだれに水のみかさやまさるらし みおのしるしもみえずなりゆく
                        (千載和歌集 三夏 前参議親隆)
△津吏
住吉スミノエの津守ツモリ網引アビキのうけの緒の うかれかゆかし恋ひつゝあらずば
                         (萬葉集 十一古今相聞往来歌)
△泊トマリ
なきずみの 船瀬フナセゆ見ゆる 淡路島 松帆マツホの浦に 朝なぎに 玉藻苅りつゝ ゆ
うなきに 藻塩焼きつゝ あまをと女メ ありとは聞けど 見にゆかむ よしの無ければ
ますらをの 情ココロはなしに たわや女の おもひたわみて たもとほり 吾れはぞ恋
ふる 船梶をなみ(萬葉集 六雑歌)
ゆきめぐり見ともあかめやなきずみの 船瀬フナセの浜によするしらなみ(同)
 
△港(湊・水門)
吾が船は枚ヒラの湖ミナトにこぎはてむ おきべなさかりさよふけにけり
葦辺アシベには鶴タヅがね鳴きて湖ミナト風 寒く吹くらむ津をの埼サキはも
                            (以上 萬葉集 三雑歌)
 
△関
関の戸ぞおどろかれける君がため 心とゞめぬ時のなければ(源公忠朝臣集)
秋の夜は関の戸ざしもゆるさなむ 行とまるべき月の影かは
                      (続千載和歌集 四秋 権中納言為藤)
逢坂のせき山こゆるけふさへや なをやなみだの尽せざるらん(馬内侍集)
今はとて立かへりゆくふるさとの ふはのせきぢにみやこわするな
                     (後撰和歌集 十九離別 藤原きよたゞ)
ゆくとくとせきとめがたきなみだをや たえぬし水と人はみるらん
                             (源氏物語 十六関屋)
 
もる人もまたたえなくに川口の 関のくぎぬきはや朽にけり
                        (堀河院御時百首和歌 雑 隆源)
ひまおほきふはの関屋はこの程の 時雨も月もいかにもるらん(十六夜日記)
昔だにあれにしふはの関なれば 今はさながら名のみ成けり(小島のくちずさみ)
戸ざしをばいく世忘れてかくばかり こけのみとづるふはの関やぞ(覧富士記)
ふきかへて月こそもらね板びさし とくすみあらせ不破の関守
                       (美濃明細記 十 将軍普広院義教)
 
△関明神
こえて後物思ひけるあふ坂は 関もる神やゆるさゞるらん
                     (新千載和歌集 十三恋 二条院さぬき)
 
△関寺
あふ坂の関のやま風吹声は 昔聞しにかはらざりけり(更級日記)
 
△関吏
吾が背子セコがあとふみもとめ追ひゆかば 木の関守セキモリいいとゞめむかも
                               (萬葉集 四相聞)
△関 雑載
吹風をなこその関とおもへども 道もせにちる山桜かな
                        (千載和歌集 二春 源義家朝臣)
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