37a 橋を詠める和歌
 
△棚橋タナハシ
天のなる 一つ棚橋タナバシ いかでか行かむ わか草の 妻がりとへば あゆひすらくを
中略(萬葉集 十一古今相聞往来歌)
行人のこまもとゞめぬたなはしは おしみとりたるかいもなきかな
                             (空穂物語 吹上之上)
白雲のたなびきわたるあしびきの 山のたな橋我もふみみん(貫之集 三)
 
まてといはゞねてもゆかなんしゐて行 駒の足おれ前の棚橋
                       (古今和歌集 十四恋 読人しらず)
しゐてゆく駒のあしおるはしをだに など我宿に渡さゞりける
                      (後撰和歌集 十三恋 読よ人しらず)
山里のまへのたな橋苔むして 往来まれなる程ぞしらるゝ
                  (新続古今和歌集 十八雑 後押小路前内大臣)
 
△大橋オホハシ
しな照る かたしは河の さにるりの 大橋の上ヘゆ 紅クレナイの 赤裳すそ引き 山藍ヤマ
アヒもて 摺れる衣キヌきて 直タダ独り い渡らす児コは 若草の 夫ツマか有るらむ 橿カシ
の実の 独りかぬらむ 問はまくの 欲しき吾妹ワギモが 家の知らなく
                               (萬葉集 九雑歌)
大橋のつめに家有らばま悲しく 独りゆく児に屋戸宿かさましを(同)
しなてるやかた岡川の大橋を 渡りてみれば昔おもほゆ(松葉名所和歌集 四加 光俊)
 
△広橋ヒロハシ
ひろばしをうまこしがねてこゝろのみ いもがりやりてわはこゝにして
                              (萬葉集 十四東歌)
 
△長橋
引わたち瀬田の長橋きりはれて くまなく見ゆる望月のこま
                    (堀河院御時百首和歌 秋 修理大夫顕季)
うちわたすせたのながはし程もなく ひとむらみゆる野ぢの松原
                      (夫木和歌抄 二十九松 民部卿為家)
 
△高橋
石上イソノカミふるの高橋タカハシ高高タカダカに 妹が待つらむ夜ぞふけにける
                         (萬葉集 十二古今相聞往来歌)
さはだ河 つくばかり あさけれど はれ あさけれど くにの宮人 高はしわたす 
あはれ そこよしや 高はしわたす(催馬楽)
 
△反橋ソリハシ
池水のすさきにわたすそりばしも かたぶくまでに古にける哉(新撰六帖 三)
 
△玉橋タマハシ
久堅の 天アマのがはらに 上カミつ瀬に 珠橋タマハシ渡し 下シモつせに 舟を浮けすゑ 雨
ふりて 風吹かずとも 風吹きて 雨ふらずとも 裳ぬらさず やまず来ませと 玉橋
渡す 中略(萬葉集 九雑歌)
 
△橋具
をばたゞの坂田の橋のこぼれなば けたよりゆかんこふな我せこ
                        (続後拾遺和歌集 十三恋 人麿)
朝夕につたふいたゞの橋なれば けたさへたえてたぢろぎにけり(散木葉謌集 雑)
待ほどにいたゞのはしもけたくちば わたせなしとてとしをへよとや
                       (夫木和歌抄 二十一橋 登蓮法師)
思ひさへうきて大ゐのはしばしら 立朝ぎりのはるゝまもなし(新名所絵歌合 良恵)
年ふれば朽こそまされ橋柱 むかしながらの名だにかはらで
                         (新古今和歌集 十七雑 忠峯)
 
思ふことむかしながらの橋ばしら ふりぬる身こそかなしかりけれ
                     (新勅撰和歌集 十九雑 よみ人しらず)
宮橋の残るはしらにことゝはん 朽て幾代かたえわたりぬる(海道記)
さとの名もいざしらきどの橋ばしら たちよりとへばなみぞこたふる(廻国雑記)
いそのかみふるのゝ里のまろきばし くちぬるものはたもとなりけり
                     (夫木和歌抄 二十一橋 後鳥羽院御製)
大橋のつめに家有らばま悲しく 独りゆく児に屋戸ヤドかさましを(萬葉集 九雑歌)
 
△橋守
ちはやぶるうぢの橋守なれをしぞ あはれとはおもふとしのへぬれば
                       (古今和歌集 十七雑 読人しらず)
にほてるややばせのわたりする舟を いくそたびみつせたのはし守
                           (永久四年百首 雑 兼昌)
年へたる宇治の橋守ことゝはん 幾代になりぬ水のみなかみ
                      (新古今和歌集 七賀 藤原清輔朝臣)
 
△橋供養
行末も道はまどはじためしなき けふのみゆきの跡を残して
          (続後拾遺和歌集 十五雑 円光院入道前関白太政大臣藤原兼平)
 
△雑載
夜さむなる豊のあかりを霜の上に 月さえわたる雲のかけはし
                      (新拾遺和歌集 六冬 前大納言為家)
あまのがは雲のかけはしこえゆかむ いかでか月のすみわたるらん
                       (夫木和歌抄 二十一橋 藤原顕方)
かさゝぎのわたせるはしにおく霜の 白きをみれば夜ぞ深にける(家持集)
かさゝぎのわたせるはしのしものうへを よはにふみわけことさらにこそ
                               (大和物語 上)
名にしぉひばかさゝぎの橋わたす也 別るゝ袖は猶やぬるらん(源順集)
 
彦星の行あひをまつかさゝぎの 渡せる橋をわれにかさなん
                     (新古今和歌集 十八雑 菅贈太政大臣)
天野川もみぢをはしに渡せばや たなばたつめの秋をしもまつ
                        (古今和歌集 四秋 読人しらず)
天の川かよふうき木にこと問ん 紅葉の橋はちるやちらずや
                     (新古今和歌集 十七雑 藤原実方朝臣)
世の中は夢のわたりのうきはしか うちわたしつゝ物をこそおもへ
                        (源氏物語湖月抄 五十四夢浮橋)
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