37 橋を詠める和歌
 
                       参考:吉川弘文館発行「古事類苑」
 
△名称
天橋アマバシも 長くもがも 高山も 高くもがも 月夜見ツキヨミの 持ちこせる水 い取り
来て きみに奉マツりて 越えんとしはも(萬葉集 十三雑歌)
 
△独橋ヒトツバシ
津の国のなにはの浦のひとつ橋 君をしおもへばあからめもせず(古今和歌集 三)
くちのこる野田の入江のひとつばし 心ぼそくも身ぞふりにける
                     (夫木和歌抄 二十一橋 平政叢朝臣)
 
△円橋マロバシ
くちにけり人もかよはずいそのかみ ふるのゝさはにわたすまろばし
                    (堀河院御時百首和歌 雑 藤原顕仲朝臣)
△円木橋マロキバシ
旅人のわたるかけぢの丸木ばし あやぶみながら行ちがひつゝ(新撰六帖 三 知家)
ふみまよふ山のかけぢの丸木橋 しらずながらや恋渡るべき(同 前内大臣)
すゞか山きりのふるきのまろきばし これもやことの音にかよふらん
                  (夫木和歌抄 二十一橋 皇太后宮大夫俊成卿)
 
△伏木橋フシギノハシ
夕まぐれすだくほたるは谷川の ふしぎの橋のしるべなりけり
                    (夫木和歌抄 二十一橋 権大納言実家卿)
 
△打橋ウチハシ
はたものゝふみ木もて来て天河 打橋わたす君が来むため(倭君栞 前編四宇/萬葉集)
 
飛鳥トブトリの 明日香の河の 上つ瀬に 石橋イハバシ渡し 下つ瀬に 打橋渡し 石橋に
生ひ靡ける 玉藻もぞ 絶ゆれば生ふる 打橋に 生ひをゝれる 川藻もぞ かるれば
はゆる 下略(萬葉集 二挽歌)
千鳥鳴く佐保サホの河門カハトの瀬を広み 打橋渡すなが来ともへば(同 四相聞)
勢セの山にたゞに向かへる妹の山 事ゆるせやも打橋渡す(同 七雑歌)
 
△桧橋ヒバシ
さしなべにゆわかせこども櫟津イチヒヅの 桧橋ヒバシより来む狐キツにあむさむ
                          (萬葉集 十六有由縁并雑歌)
 
△板橋イタバシ
打わたすまきの板橋朽にけり まれにも人のこばいかにせん
                    (堀河院御時百首和歌 雑 権中納言国信)
はしどゝのまきの板橋いしばしに つゞきてのぼる山ぞかしこき
                      (夫木和歌抄 二十一橋 民部卿為家)
 
△石橋イハバシ・イシバシ
飛鳥トブトリの 明日香の河の 上つ瀬に 石橋イハバシ渡し 下つ瀬に 打橋渡し 石橋に
生ひ靡ける 玉藻もぞ 絶ゆれば生ふる 打橋に 生ひをゝれる 川藻もぞ かるれば
はゆる 下略(萬葉集 二挽歌)
あきさればきりたちわたるあまのがは いしなみおかばつぎな見むかも(同 二十)
 
うつせみの人目を繁み石イハばしの ま近き君に恋ひわたるかも(同 四相聞)
年月もいまだへなくに明日香河 瀬ぜゆ渡りし石ばしも無し(同 七雑歌)
橋立ての 倉橋川の 石のはしはも をざかりに 我がわたりし 石のはしも(同)
石ばしのまゝにおひたる貌花カホバナの 花にし有りけりありつゝ見れば(同 十秋相聞)
 
明日香川明日も渡らむ石ばしの 遠き心は思ほえぬかも(同 十一古今相聞往来歌)
みてぐらを ならより出でて 水蓼ミヅタデを 穂積ホヅミに至り となみはる 坂手を過
ぐり 石イハばしの かみなび山に 朝宮に仕へ奉りて 吉野ヨシヌへと 入ります見れば 
古イニシヘおもよゆ 中略(同 十三)
 
おく山の人もかよはぬ谷河に せゞの岩橋たれわたしけん(永久四年百首 雑 常陸)
つまぎこるわがかよひぢのほかにまた 人もいひこぬたにのいはゞし
                      (夫木和歌抄 二十一橋 二条院讃岐)
くれゆけばこの下くらきいはゞしの みたらしがはにとぶ螢かな(同 従二位頼氏卿)
かよひこしゐでのいはゞし辿るまで ところもさらずさける山ぶき
                             (同 修理大夫顕季卿)
 
△浮橋ウキハシ
山しろの くにのみやこは 春されば花咲きをゝり 秋されば 黄葉モミヂバにほひ お
ばせる 泉の河の かみつ瀬に うち橋わたし よど瀬には うき橋わたし ありがよ
ひ つかへまつらむ 万代ヨロヅヨまでに(萬葉集 十七)
 
たえざりし昔だにみしうきはしを いまはわたると音にのみきく
                      (後撰和歌集 十四恋 よみ人しらず)
 
踏かへす谷のうき橋浮世ぞと 思ひしよりもぬるゝ袖かな(源平盛衰記 三十八)
かりそめに舟もてあめるうきはしの かけてあやうきよをわたりつゝ
                   (夫木和歌抄 二十一橋 中務卿のみこ鎌倉)
いざやさは君にあはずばわたらじと 身をうきはしにかきつけてみん
                              (六百番歌合 顕昭)
うき橋に竹のよりつなうちはへて 小舟ならぶるふじの川浪
                       (夫木和歌抄 二十一橋 法眼慶融)
 
△舟橋フナバシ
これやこのそらにはあらぬあまの川 かたのへ行は渡る船はし(新撰六帖 三)
水まさるぬまのふなばしともすれば うきよわたりに袖ぬらしつゝ
                      (夫木和歌抄 二十一橋 民部卿為家)
けぶりたつさとのしるべをめにかけて まだほどとをしさのゝ舟ばし(同)
 
△懸橋カケハシ
心してこまはゆかなんあし引の 山のかけはしこけおひにけり(源道済集)
渡らじや磯のかけ橋ふりぬだに まどをに見ゆる中の景色を(相模集)
 
△綱橋・蔓橋
みちのくのとづなのはしにくるつなの たえずも人にいひ渡るかな
                             (千載和歌集 十二恋)
 
△継橋ツギハシ
真野マヌの浦のよどの継橋ツギハシ情ココロゆも 思へや妹がいめにし見ゆる(萬葉集 四相聞)
あのおとせずゆかむこまもがかつしかの まゝのつぎはしやまずかよはむ
                                (同 十四東歌)
きりふかき大ぬのつゝみ行くれて わたりわづらふまきつつぎ橋
                             (新名所絵歌合 良譽)
 
いそぎしもこし路のなごのつぎはしも あやなくわれやなげきわたらん
                       (夫木和歌抄 二十一橋 和泉式部)
いとゞしくこひぢにまよふ我身哉 なごのつぎはしとだえのみして(同 よみ人不知)
杜若カキツバタ咲てや花のへだつらん とだえかくるゝなごのつぎはし
                            (同 六杜若 光俊朝臣)
曙や夢はとだえし波の上に なごの継橋のこるとぞみる(善光寺記行)
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