34a 野を詠める和歌
△武蔵国武蔵野
契り置て誰かは春のはつ草に 忍びの岡の露の下もえ
忘れずば東風吹むすべ都まで 遠くしめのゝそでの梅がか(以上 北国紀行)
厭はずばかゝらましやは露の身の 憂にも消ぬ武蔵のゝ原(都のつと)
むさし野といづくをさして分いらん 行も帰るもはてしなければ(武蔵野紀行)
武蔵野にうらへかたやきまさてにも のらぬきみが名うらにでにけり
武蔵野のをぐきがきけしたちわかれ いにしよひよりせろにあはなふよ
こひしけばそでもふらむをむさし野の うけらがはなのいろにづなゆめ
(以上 萬葉集 十四東歌)
いかにしてこひばかいもに武蔵野の うけらがはなのいろにでずあらむ(同)
武蔵野のくさはもろむきかもかくも きみがまにまに吾れはよりにしを
いりまでのおほやがはらのいはゐづら ひかばぬるぬるわになたえそね
わがせこをあとかもいはむむさし野の うけらがはなのときなきものを(以上 同)
秋風の吹とふきぬるむさし野は なへて草葉の色かはりけり
(古今和歌集 十五恋 よみ人しらず)
むさし野は月の入べき嶺もなし お花が末にかゝるしら雲
(続古今和歌集 四秋 大納言通方)
おいらくの身をつみて社コソ武蔵野の 草にいつまで残る白雪(慕景集)
△近江国宇禰野ウネノノ
茜草アカネさすむらしき野ゆき標野シメノ行き 野守は見ずや君が袖ふる(萬葉集 一雑歌)
紫草ムラサキのにほへる妹をにくゝあらば 人嬬ゆえに吾れ恋ひめやも(同)
あふみよりあさたちくればうねのゝに たづぞ鳴くなる明ぬこのよは
(古今和歌集 二十大歌所御歌)
△信濃国菅荒野
信濃なるすがのあらのにほとゝぎす なくこゑきけばときすぎにけり
(萬葉集 十四東歌)
△陸奥国宮城野
みさぶらひみかさと申せ宮ぎのゝ 木の下露は雨にまされり(古今和歌集 二十東歌)
みやぎのゝつゆふきむすぶ風のをとに 小萩がもとを思ひこそやれ
(源氏物語 一桐壷)
△播磨国印南野イナミノ
稲日野イナヒノもゆきすぎがてに思へれば 心恋ひしきかこの島見ゆ(萬葉集 三雑歌)
南南野イナミヌはゆきすぎぬらし天つたふ 日笠ヒガサの浦に波立てる見ゆ(同 七雑歌)
△野守
茜草アカネさすむらしき野ゆき標野シメノ行き 野守は見ずや君が袖ふる(萬葉集 一雑歌)
かすがのゝとぶひののもり出て見よ いまいくか有て若なつみてん
(古今和歌集 一春 よみ人しらず)
△雑載
いそがずばぬれざらましを旅人の 跡よりはるゝ野路の村雨(慕景集)
△原 信濃国園原ソノハラ
立ながら今宵はあけぬそのはらや ふせやといふもかひなかりけり
(新古今和歌集 十羇旅 藤原輔尹朝臣)
そのはらやふせやにほふるはゝきゞの 有とは見えてあはぬ君哉
(同 十一恋 坂上是則)
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