31a 山を詠める和歌
 
△同 畝傍山ウネビヤマ
玉だすき 畝火ウネビの山の 橿原の ひじりの御世ゆ あれましゝ 神のあらはす 樛
ツガの木の 弥イヤ継ぎ継ぎに 天下 しろしめしゝを 天ソラに満つ 倭を置きて 青丹吉
アヲニヨシ 平山ナラヤマを越え(萬葉集 一雑歌)
 
やすみしゝ わご大王 高照らす 日の皇子ワカミコ あらたへの 藤井が原に 大御門 
始め賜ひて はにやすの 堤ツツミの上に ありたたし 見し賜へば 中略 畝火ウネビの 
このみづ山は 日の緯ヌキの 大御門に みづ山と 山さびいます 下略(同)
 
△同 初瀬山ハツセヤマ
あまをぶね泊瀬の山にふる雪の けながく恋し君がこゑぞする
                          (冠辞考 一阿/萬葉集巻十)
 
やすみしし 吾が大王 高照らす 日の皇子ミコ 神カムながら 神さびせすと ふとしき
し 京ミヤコを置きて こもりくの 泊瀬の山は 眞木マキ立てる 荒山道を いはがねの
ふせきおしなみ 坂鳥の 朝越えまして 玉きはる 夕さり来れば み雪ふる あきの
大野オホヌに はたすゝき しのをおしなみ 草枕 たびやどりせす 古昔ムカシおもひて
                               (萬葉集 一雑歌)
 
△同 三諸山ミモロヤマ(三輪山ミワヤマ)
味酒ウマザケ 三輪の山 青丹吉 奈良の山の 山の際マに いかくるまで 道のくま い
つもるまでに つばらにも 見つゝ行かむを しばしばも 見さけむやまを 情ココロなく
雲のかくさふべしや(萬葉集 一雑歌)
 
三輪山をしかもかくすか雲だにも 情ココロ有らなむかくさふべしや(同)
 
三諸の 神なび山に 五百枝イホエ刺し しゞにおひたる つがの樹の 弥イヤ嗣ぎ嗣ぎに
玉かづら 絶ゆる事なく ありつゝも つねに通はむ 明日香の ふるき京師ミヤコは 山
高み 河とほじろし 春の日は 山しみがほし 秋の夜は 河し清サヤけし あさ雲に 
たづは乱れて 夕霧に 河づは騒ぐ 見るごとに ねのみし泣かる 古イニシヘ思へば
                                 (同 三雑歌)
 
明日香河川よどさらず立つ霧の おもひ過ぐべきこひにあらなくに(同)
 
△同 多武峯タフノミネ
うちたをる多武タムケノ山霧しげきかも 細川の瀬に波さわぎける(萬葉集 九雑歌)
 
△同 龍田山
海ワタの底おきつ白波立田山 何時か越えなむ妹があたり見む(萬葉集 一)
 
△遠江国佐夜中山サヨノナカヤマ
かひがねをさやかにもみしがけゝれなく よこほりふせるさやの中山
                      (東海道名所図会 四/古今 紀友則)
 
△駿河国宇津山ウツノヤマ
するがなるうつの山べのうつゝにも 夢にも人にあはぬなりけり(東海道名所図会 四)
 
△近江国相坂山
木綿ユフだたみ手向けの山を今日越えて いづれの野辺ヌベに廬イホリせむ子ら
                               (萬葉集 六雑歌)
 
△同 鏡山
鏡山いざたちよりてみてゆかん 年へぬる身はおいやしぬると(古今和歌集 十七雑)
 
近江のや鏡の山をたてたれば かねてぞみゆる君が千年は
                        (同 二十大歌所御歌 大伴黒主)
 
△飛騨国位山クライヤマ
衣手の色まさりけり信濃なる くらゐの山は君がまにまに
                    (信濃地名考 中編/六帖 よみ人しらず)
 
こずゑ吹あらしも高き位やま ひはらが下にかゝる白雲(北国紀行)
 
△信濃国姨捨山ヲバステヤマ
わがこゝろなぐさめかねつさらしなの おばすてやまにてる月をみて(大和物語 坤)
 
よしさらばみずとも遠くすむ月を 面影にせん姨捨の山(北国紀行)
 
△陸奥国金花山キンクハサン
皇の御代さかへんと東なる 陸奥山に金花さく(国花萬葉記 十一陸奥)
 
△同 末松山
君をおきてあだし心をわがもたば 末の松山浪もこえなむ(古今和歌集 二十東歌)
 
△紀伊国妹背山イモセヤマ
ながれてはいもせの山の中におつる よし野のかはのよしや世の中(袖中抄 十四)
 
此れやこの倭にしては我が恋ふる 木路キヂに有りと云ふ名におふ勢能山セノヤマ
                               (萬葉集 一雑歌)
 
△豊前国鏡山
王オホキミの親魄ムツタマあへや豊国トヨクニの 鏡山カガミノヤマを宮と定むる
豊国の鏡山の石戸イハト立て 隠れにけらし待てど来まさね(以上 萬葉集 三挽歌)
 
君にもし心たがはゞ松浦なる かゞみの神をかけてちかはん(源氏物語 二十二玉蔓)
 
△肥前国領巾麾山ヒレフルヤマ
とほつひとまつら佐用サヨひめつまごひに ひれふりしよりおへるやまのな
やまのなといひつげとかも佐用比売サヨヒメが このやまのへにひれをふりけむ
よろづよにかたりつぐとしこのたけに ひれふりけらしまつら佐用ひめ
うなばらのおきゆくふねをかへれとか ひれふらしけむまつらさよ比売ヒメ
ゆくふねをふりとどみかねいかばかり こほしくありけむまつらさよ比売ヒメ
                            (以上 萬葉集 五雑歌)
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