31 山を詠める和歌
参考:吉川弘文館発行「古事類苑」
△山
み山には松の雪だにきえなくに 都はのべのわかなつみけり
(古今和歌集 一春 よみ人しらず)
み山には霰ふるらしと山なる まさきのかつら色付にけり(同 二十大歌所御歌)
と山なるしばの立枝にふく風の 音きくおりぞ冬はものうき
(詞花和歌集 四冬 曽禰好忠)
△司
里もくに霜は置くらし高松の 山の司の色付く見れば(萬葉集 十秋雑歌)
△尾
うごきなく絶ぬためしときぶねなる 山を河をに世を祈かな(倭訓栞 前編三十四也)
△岡
吾が岡のおかみに言ひてふらせたる 雪のくだけしそこにちりけむ(萬葉集 二相聞)
秋風の寒き朝けをさぬの崗 越ゆらんきみに衣キヌかさましを(同 三雑歌)
△峠タフケ
かしこみとのらずありしをみこしぢの たむけに立て妹がなのりつ
(倭訓栞 前編十四多/萬葉集)
△坂
青つゞらつゞらをるてふしげき野は とほりがたくぞ駒もやすらふ
中々につゞらをりなる路たえて ゆきにとなりのちかきやまざと
(以上 倭訓栞 前編十六都)
なげきのみおほえの山は近けれど いま一さかを越ぞかねつる(躬恒集)
△峡カヒ
山のかひそことも見えずをとつ日も 昨日も今日もゆきのふれゝば(萬葉集 十七)
桜花さきにけらしなあしびきの 山のかひよりみゆるしら雲
(古今和歌集 一春 貫之)
わびしらにましらななきそ足引の 山のかひあるけふにやはあらぬ
(同 十九誹諧 みつね)
まちかねてたづねざりせば子規 たれとかやまのかひになかまし
(金葉和歌集 二夏 源俊頼朝臣)
△岫クキ・ミネ
玉釧タマクシロ巻きねし妹を月もへず 置きてや越えむこの山の岫クキ
(萬葉集 十二古今相聞往来歌)
△窟イハヤ
大汝オホナムチ小彦名スクナヒコナのいましけむ しづの石室イハヤは幾代経ぬらむ(萬葉集 三雑歌)
△山守ヤマモリ
さゞなみの大山守は誰タがためか 山に標シメ結ユふ君もあらなくに(萬葉集 二相聞)
山守はいはゞいはなむ高砂の をのへの桜をりてかざゝむ(後撰和歌集 二春)
△山城国大内山
遥かなる都のいぬゐわが宿は 大内山のふもとなりけり(倭訓栞 前編四十五於)
しら雲の九重にたつ峯なれば 大内山といふにぞありける
(新勅撰和歌集 十九雑 中納言兼輔)
△同 嵐山
あらし山是もよしのやうつすらん 桜にかゝる滝の白糸
(都名所図会 四/新千 後宇多院)
思ひいづる人も嵐の山のはに 独ぞいりし有明の月(同 新古 法印静賢)
あらし山麓の花の梢まで ひとへにかゝる峯の白雪(同 続千 前大納言為氏)
△大和国春日山
春日ハルビを 春日カスガの山の 高くらの 御笠ミカサの山に 朝さらず 雲ゐたなびき か
ほ鳥の 間マなくしば鳴く 雲ゐなす 心いざよひ その鳥の かた恋のみに 昼はも
日のことごと 夜はも 夜のことごと 立ちてゐて おもひぞ吾がする あはぬ児コゆえ
に(萬葉集 三雑歌)
高くらの三笠の山に鳴く鳥の 止めば継がるゝ恋もするかも(同)
御笠山野辺ゆく道はこきだくも しげく荒れたるかひさに有らなくに(同 二挽歌)
△同 那羅山ナラヤマ
玉だすき 畝火ウネビの山の 橿原の ひじりの御世ゆ あれましゝ 神のあらはす 樛
ツガの木の 弥イヤ継ぎ継ぎに 天下 しろしめしゝを 天ソラに満つ 倭を置きて 青丹吉
アヲニヨシ 平山ナラヤマを越え(萬葉集 一雑歌)
△同 天香久山アメノカグヤマ
やまとには 村山有れど とりよろふ 天の香具山 のぼり立ち 国見をすれば 国原
クニバラは 煙ケブリ立ちたつ 海原は かまめ立ちたつ うまし国ぞ 蜻島アキツシマ やまと
の国は(萬葉集 一雑歌)
春過ぎて夏来るらし白妙の 衣ほしたり天の香来山(同 一雑歌)
高山カグヤマは うねびををしと 耳梨ミミナシと あひあらそひき 神代より かくなるらし
古昔イニシヘも しかなれこそ 虚蝉ウツセミも 嬬をあらそふらしき(同)
高山と耳梨山とあひしとき 立ちて見に来コしいなみ国ばら(同)
△同 耳梨山ミミナシヤマ(クチナシヤマ)
うだの野は耳なし山か喚子鳥 よぶ声にだに谷へさがらん
(大和名所図会/後撰集 読人しらず)
耳なしの山ならずともよぶ子鳥 なにかはきかん時ならぬ音を
(同/同返し 女王のみこ)
あだ人は耳無山の紅葉かな まててふとしをきかでちりぬる
(同/懐中抄 よみ人しらず)
大和なるくちなし山の山賎は いわでぞおもふ心ひとつに
(同/歌枕名寄 よみ人しらず)
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