30 皇都ミヤコを詠める和歌
 
                       参考:吉川弘文館発行「古事類苑」
 
△名称
たくつぬの 新羅の国ゆ 人ことを よしときかして 問ひさける 親族ヤカラ兄弟ハラカラ
無き国に 渡り来まして 太皇スメロギの 敷きます国に うちひさす 京ミヤコしみみに 
里家サトイヘは さはにはあれども 下略(萬葉集 三挽歌)
 
うちひさすみやこのひとにつげまくは みしひのごとくありとつげこそ(同 二十)
 
たひらかに平のきやうにすむ人は ひらたけをこそくふべかりけれ
                            (古今著聞集 十八飲食)
 
△相地
昔より都しめたる此里は たゞ我国のもなかなりけり(秋篠月清集 四雑)
 
△二京
草わかみむすびし萩はほにいでず 西なる人や秋を知らん(元輔朝臣家集)
 
△条
古のあとをぞたのむかつまたの いけにもとりのかへりすむよに
古のあとにかへらばかつまたの いけらんかぎりものはおもはじ(以上 寂蓮法師集)
 
△遷都例
たをやめの袖ふきかへす明日香風 京都ミヤコを遠みいたづらにふく(萬葉集 一雑歌)
 
とぶとりの明日香の里をおきていなば 君があたりは見えずかもあらむ(同)
 
やましろの くにのみやこは 春されば 花咲きをゝり 秋されば 黄葉モミヂバにほひ
おばせる 泉河イヅミノカハの かみつ瀬に うち橋わたし よど瀬には うき橋わたし あ
りがよひ つかへまつらむ 万代ヨロヅヨまでに(同 十七)
 
たてなめていづみのかはの水緒ミヲたえず つかへまつらむ大宮所オホミヤドコロ(同)
 
あきつ神 吾が大王オホキミの 天下 八島の中ウチに 国はしも 多くあれども 里はしも
さはにあれども 山なみの 宜ヨロしき国と 川なみの 立ちあふ郷と 山代の 鹿背山
カセヤマのまに 宮柱ミヤバシラ 太敷フトシキ奉タテて 高知らす ふたぎの宮は 河ちか見 せの
音トぞ清き 山ちか見 鳥がねいたむ 秋されば 山もとどろに さを鹿は 妻よびとよ
め 春されば 岡べもしゞに 巌イハホには 花さきをゝり あなにやし ふたぎの原に 
いとたかき 大宮処 うべしこそ 吾が大王は 君のまに きこし賜ひて さすたけの
大宮こゝと 定めけらしも(同 六雑歌)
 
みかの原ふたぎの野辺ヌベを清みこそ 大宮処定めけらしも(同)
山高く川のせ清し百世モモヨまで 神のみゆかむ大宮所(同)
 
△興廃
玉だすき 畝火の山の 中略 いはばしる 淡海アハミの国の 楽浪サザナミの 大津の宮に
天下 しろしめしけむ 天皇スメロギの 神のみことの 大宮は こゝと聞けども 大殿は
こゝと云へども 春草の 茂くおひたる 霞立つ 春日ハルビのきれる ももしきの 大
宮処 見れば悲しも(萬葉集 一雑歌)
 
古人フルヒトにわれ有らめやさゝ浪の ふるき京ミヤコを見れば悲しも(同)
 
かくゆえに見じと云ふものをさゝ波の ふるき都をみせつゝもとな(萬葉集 三雑歌)
 
さゝなみやしがの都はあれにしを むかしながらの山ざくらかな
                         (千載和歌集 一春 読人不知)
 
三香ミカの原 くにの京師ミヤコは 山高み 河の瀬清し ありよしと 人は云へども あり
よしと 吾れはもへども ふりにし 里にしあれば 国見れど 人も通はず 里見れば
家も荒れたり はしけやし かくありけるか 三諸ミモロつく 鹿背山カセヤマのまに さく花
の 色めづらしく 百鳥モモトリの こゑなつかしく ありかほし 住吉の里の 荒れらく
惜しき(萬葉集 六雑歌)
 
三香の原くにの京は荒れにけり 大宮人のうつりいぬれば(同)
 
紅クレナイに深く染ソみにし情ココロかも ならの京師ミヤコに年のへぬべき
世間ヨノナカを常無きものと今ぞ知る 平城ナラの京焼師の移ろふ見れば
いはつなのまた若がへりあおによし 奈良の都をまたも見むかも
                            (以上 萬葉集 六雑歌)
 
やすみしし 吾が大王の 高しらす 日本ヤマトの国は 皇祖スメロギの 神の御代より し
きませる 国にし有れば あれまさむ 御子の嗣ぎ嗣ぎ 天下 知らしまさむと 八百
万 千年チトセをかねて 定めけむ 平城ナラの京師ミヤコは 炎カギロヒの 春にしなれば 春日
山 御笠ミカサの野辺に 桜花 木コのくれがくり かほよ鳥は 間マなくしば鳴き 露霜ツユ
ジモの 秋さり来れば 射駒山イコマヤマ 飛ぶ火がをかに 萩の枝を しがらみ散らし さ
を牡鹿シカは 妻呼びどよめ 山見れば 山も見がほし 里見れば 里も住吉 ものゝふ
の 八十伴緒トモノヲの 打ちはへて 里なみしけば 天地の よりあいのきはみ 万世ヨロ
ヅヨに 栄えゆかんと 思ひしに 大宮すらを たのめりし ならの京ミヤコを 新世アラタヨ
の 事にし有れば 皇オホキミの ひきのまにまに 春花の うつろひかはり 村鳥の あ
さ立ちゆけば 刺竹サスタケの 大宮人の ふみならし 通ひし道は 馬も行かず 人もゆ
かねば 荒れにけるかも(同)
 
立ちかはり古き京となりぬれば 道のしば草長く生ひにけり(同)
なつきにし奈良の京の荒れ行けば 出で立つ毎に嘆きしまさる(同)
 
ふるさとゝ成にしならの都にも 色はかはらず花はさきけり(古今和歌集 二春)
 
いにしへのならのみやこの八重桜 けふ九重ににほひぬるかな
                         (詞花和歌集 一春 伊勢大輔)
 
世の中は常なきものと今ぞしる ならの都のうつろふみれば
                       (玉葉和歌集 十五雑 読人しらず)
 
△雑載
たつのまもいまもえてしかあをによし 奈良のみやこにゆきてみむため
                               (萬葉集 五雑歌)
 
見わたせば柳桜をこきまぜて 都ぞ春の錦なりける(古今和歌集 一春 そせい法師)
 
あまざかるひなのみやこにあめひとの かくこひすらばいけるしるしあり
                                (萬葉集 十八)
 
事たらぬ人も都に有るものを ゐなかにすむとさのみ嘆きそ(倭訓栞 前編四十三為)
 
昔こそ難波ゐなかと言はれけめ 今はみやことそなはりにけり(萬葉集 三雑歌)
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