27 七夕などを詠める和歌
 
                       参考:吉川弘文館発行「古事類苑」
 
△七夕
乾坤アメツチの 初めの時ゆ 天漢アマノガハ いむかひをりて 一年ヒトトセに ふたたびあはぬ
妻恋ツマゴヒに ものおもふ人 天漢アマノガハ 安ヤスの川原カハラの ありがよふ としの渡り
に そぼ船の 艫トモにもへにも 船よそひ ま梶しゞぬき はたすゝき 本モトはもそよ
に 秋風の 吹き来る夕ヨヒに 天川アマノガハ 白なみしぬぎ 落ちたぎつ はやせわたり
て わか草の 妻でまかんと 大船オホブネの 思ひたのみて こぎ来クらむ その夫ツマの
子が 荒珠アラタマの 年の緒長く 思ひ来コし 恋ひつくすらむ 七月フミヅキの 七日ナヌカの
夕ヨヒは 吾れも悲しも(萬葉集 十秋雑)
 
一年ヒトトセに七夕ナヌカノヨのみあふ人の 恋ひもつきねば夜のふけゆくも(同 十秋雑)
 
かさゝぎの翅ツバサならぶるをりしもあれ 袖をつらねていはふ諸人
                            (幕朝年中行事歌合 中)
 
△同 乞巧奠キカウデン
七夕にかしつる糸の打はへて 年のをながく恋やわたらむ
                        (古今和歌集 四秋 凡河内躬恒)
 
見るまゝに庭のともし火かすかにて 七夕祭る夜は更にけり
                        (夫木和歌抄 十七夕 信実朝臣)
 
しら露の珠のをごとの手向して 庭にかゝぐる秋のともし火
                           (同 常磐井入道太政大臣)
 
七夕にけふは手向る琴の緒の たえぬや秋のちぎりなるらん
                           (年中行事歌合 為邦朝臣)
 
ふえ竹のこゑも雲ゐに聞ゆらし 今宵たむくる秋のしらべは
おなじくばそらまでおくれたき物の にほひをさそふ庭の秋かぜ
                          (以上 増鏡 十三秋のみ山)
 
たまさかにあふ事よりも七夕は けふまつるをやめづらしとみる
                          (後拾遺和歌集 四秋 小弁)
 
△同 雑載
天漢アマノガハ安川原ヤスノカハラの定まりて 神カンつゝどひはとき待たなくに(萬葉集 十秋雑)
 
天漢アマノガハあひ向き立ちて吾が恋ひし 君来ますなり紐ときまけな(同 八秋雑)
 
牽牛ヒコボシは 織女タナバタツメと 天地の 別れし時ゆ いなむしろ 河に向き立ち おも
ふ空 安ヤスからなくに 嘆く空 安からなくに 青浪に 望みはたえぬ 白雲に なみ
だは尽きぬ かくのみや いきづきをらむ かくのみや 恋ひつゝあらむ さにぬりの
小船ヲブネもがも 玉まきの まかいもがも 朝なぎに いかき渡り 夕塩に いこぎ渡
り 久方の 天の河原に 天飛ぶや 領巾ヒレかたしき 真玉手マタマデの 玉手タマデさしか
へ よいもねてしかも 秋にあらずとも(同)
 
風雲カゼクモは二つの岸にかよへども 吾が遠嬬トホヅマの事ぞ通はぬ
たぶてにもなげこしつべき天漢アマノガハ へだてればかもあまたすべなき(同)
 
久堅の 天漢アマノガハラに 上瀬カミツセに 珠橋タマハシ渡し 下つせに 船浮けすゑて 雨ふり
て 風吹かずとも 風吹きて 雨降らずとも 裳ぬらさず やまで来ませと 玉橋渡す
中略(同 九雑)
 
天河うち橋わたせ妹が家ぢ やまず通はし時待たずとも
機ハタものゝふみ持ちゆきて天河 うち橋わたすきみが来コしため
天漢アマノガハ棚橋タナハシ渡せ織女タナバタの い渡らさむに棚橋渡す(以上 同 十秋雑)
 
かさゝぎのはしつくるより天川 水もひなゝむかち渡りせん(家持集)
 
天の川もみぢを橋に渡せばや たなばたつめの秋をしもまつ
                       (古今和歌集 四秋 よみ人しらず)
 
雲はるゝあまのさよはしたえまかも と渡りくらし七夕つめは
                          (夫木和歌抄 十七夕 躬恒)
 
鵲カササギの行合ユキアヒの橋の月なれば 猶わたすべき日こそとほけれ(海人手子良集)
 
かさゝぎのよりはの橋をよそながら 待渡るよに成にける哉
                      (新勅撰和歌集 四秋 殷富門院大輔)
 
かさゝぎの雲ゐの橋の遠ければ 渡らぬ中に行月日哉
                       (続古今和歌集 四秋 正二位知家)
 
けふといへば暮るもおそく彦星の 行合の橋を待わたりつゝ
                        (新後撰和歌集 四秋 雅成親王)
 
またれつる天の河原に秋立て もみぢをわたす波のうきはし
                       (玉葉和歌集 四秋 安嘉門院四条)
 
牽牛ヒコボシの嬬迎へ船こぎいづらし 漢アメの原カハラに霧の立てれば(萬葉集 八秋雑)
 
彦星の川瀬を渡るさを舟の と行きてはてむ河津カハヅしおもほす(同 十秋雑)
 
久かたの天の河とは明にけり 妻をくりぶね今やいづらん(新撰六帖 一 光俊)
 
袖ひぢて我手にむすぶ水の面に あまつ星合の空をみる哉
                        (新古今和歌集 四秋 藤原長能)
 
秋のよをながき物とは星合の かげみぬ人のいふにぞ有ける
                        (後拾遺和歌集 四秋 能因法師)
 
△孟蘭盆ウラボン
わたつうみにおやををし入てこのぬしの ぼんする見るぞあはれなりける
                                (枕草子 十二)
 
△同 燈篭
いかなれば立もはなれずおもかげの 身にそひながらかなしかるらむ
                              (をとぎばうこ 三)
 
△同 雑載
今日とてや内蔵の司もそなふらん 玉まつるてふ七月半に(年中行事歌合 前大納言)
 
後の世にまよふ諸人こよひこそ いでし都の月をみるらん(兼載雑談)
 
△十三夜
もゝ敷の大宮ながら八十島を 見るこゝちする秋のよのつき(躬恒集)
 
岩まよりながるゝ水ははやけれど うつれる月の影ぞのどけき
                     (後拾遺和歌集 十五雑 後冷泉院御製)
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