21b 歳時を詠める和歌
 
△朝
露こそは 朝アシタに置きて 夕ユウベには 消キゆといへ 霧こそは 夕に立ちて 明アシタに
は 失ウすいへ 下略(萬葉集 二挽歌)
 
朝ごとに吾が見るやどのなでしこの 花にも君はありこせぬかも(同 八秋相聞)
 
大海オホウミの荒磯アリソの渚鳥スドリ朝なさな 見まくほしきを見えぬきみかも
                          (同 十一古今相聞往来歌類)
 
あさなさなあがるひばりになりてしか みやこにゆきてはやかへりこむ(同 二十)
 
秋立ちていくかもあらねばこのねする あさけの風はたもと寒しも(同 八秋雑歌)
 
吾がせこを倭へ遣るとさよふけて あかとき露にわれ立ちぬれし(同 二相聞)
 
あかときと鶏カケは鳴くなりよしえやし 独りぬる夜はあけばあけぬとも
                          (同 十一古今相聞往来歌類)
 
夕月夜ユフヅクヨあかとき闇のほのかにも 見し人ゆえに恋わたるかも
                          (同 十二古今相聞往来歌類)
 
いもをおもひいのねらえぬにあかときの あさぎりこもりかりがねぞなく(同 十五)
 
あかときのかはたれどきにしまかきを こぎにしふねのたづきしらずも(同 二十)
 
吾妹児ワギモコに 恋つゝをれば 明晩アケグレの あさ霧がくり 鳴くたづの ねのみしな
かゆ 下略(同 四相聞)
 
あさまだきおきてぞみつる梅花 夜のまの風のうしろめたさに
                      (拾遺和歌集 一春 兵部卿元良親王)
 
しのゝめのほがらほがらと明ゆけば おのが衣々なるぞかなしき
                      (古今和歌集 十三恋 よみ人しらず)
 
ほのぼのと明石の浦のあさ霧に 島がくれゆく舟をしぞ思ふ
                          (同 九羇旅 よみ人しらず)
 
有明のつれなくみえし別より 暁ばかりうき物はなし
                     (古今和歌集 十三恋 みぶのたゞみね)
 
おもふこと有明かたの鹿の音は 猶山ふかく家ゐせよとや
                        (千載和歌集 十七雑 藤原良清)
 
朝ぼらけ有明の月と見るまでに 吉野の里にふれる白雪
                       (古今和歌集 六冬 坂上これのり)
 
夜のほどろ吾が出て来れば吾妹子が おもへりしくし面影オモカゲにみゆ
                               (萬葉集 四相聞)
 
△昼
みつしほのながれひるまをあひがたみ みるめのうらによるをこそまで
                   (古今和歌集 十三恋 きよはらのふかやぶ)
 
うぐひすの かひこの中に ほととぎす 独りうまれて 中略 橘の 花をゐ散らし 
終日ヒネモスに なけども聞きよし 下略(萬葉集 九雑歌)
 
△夕
狛錦コマニシキ紐ときあけて夕ユフベだに 知らざる命イノチ恋つゝかあらむ
                        (萬葉集 十一古今相聞往来歌類)
 
すみぞめの ゆふべになれば ひとりゐて あはれあはれと なげきあまり せんすべ
なみに 下略(古今和歌集 十九雑体)
 
朝霞春日ハルビの晩クレは木コの間より うつろふ月を何時とか待たむ(萬葉集 十春雑歌)
 
夕暮のまがきは山とみえななむ よるはこえじとやどりとるべく
                        (古今和歌集 八離別 僧正遍昭)
 
あし曳の山郭公里なれて たそがれ時になのりすらしも
                      (拾遺和歌集 十六雑春 大中臣輔親)
 
うちびやま ひるはくもとゐ ゆふされば かぜふかむとぞ このはさやげる
                               (古事記 中神武)
 
ゆふされば衣で寒し高松タカマトの 山の木ごとに雪ぞふりたる(萬葉集 十冬雑歌)
 
山ざとの春の夕暮きてみれば いりあひのかねに花ぞ散ける
                        (新古今和歌集 二春 能因法師)
 
夕闇は路ミチたづたづし月待ちて いませ吾が背子その間にも見む(萬葉集 四相聞)
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