12 雨を詠める和歌
参考:吉川弘文館発行「古事類苑」
△小雨
玉桙の 道来る人の 泣く涙 こさめにふれば 白妙の 衣ひづちて 立ちとまり わ
れに語らく 下略(萬葉集 二挽歌)
吾妹子の赤裳のすそのひづちなむ 今日ケフのこさめに吾れさへぬれな(同 七雑歌)
うくもあるか昨日のこさめわたるせに 人の涙を淵となさねば
(古今和歌六帖 一天 そせい)
△霖ナガアメ・ナガメ
秋はぎをちらす長雨ナガメのふるころは ひとりおきゐて恋ふる夜ぞおほき
(萬葉集 十秋相聞)
うの花をくたす霖雨ナガメの水はなに よるこづみなすよらむこもがも(同 十九)
花の色うつりにけりないたづらに 我身世にふるながめせしまに(小町集)
おきもせずねもせで夜を明しては 春のものとてながめくらしつ(伊勢物語 上)
△大雨ヒヂアメ
いもがかど行すぎがてにひぢかさの 雨もふらなんあまかくれせん
いもがかどゆき過かねつひさかたの 雨もふらぬかそをよしにせん(以上 袖中抄 一)
いもがかど せながかど 行過かねて わがゆかば ひぢかさの ひぢかさの 雨もや
ふらん しでたをさ 雨やどり かさやどり やどりてまからん しでたをさ
(催馬楽)
△暴雨・白雨
庭草に村雨ムラサメふりて蟋蟀キリキリス 鳴く声聞けば秋つきにけり(萬葉集 十秋雑歌)
人しれず物思ふ夏のむら雨は 身よりふりぬる物にぞ有ける(古今和歌六帖 一天)
△春雨
春雨ハルサメを待つとにしあらじわがやどの 若木ワカキの梅もいまだふゝめり
(萬葉集 四相聞)
梓弓おしてはる雨けふ降ぬ あすさへふらば若菜つみてん
(古今和歌集 一春 よみ人しらず)
白雲の上しる今日ぞ春雨の ふるにかひある身とはしりぬる
(後撰和歌集 一春 読人しらず)
△卯花くたし
春去ればうの花くたしわが越えし 妹がかきまは荒れにけるかも(萬葉集 十春相聞)
いとゞしく賎が庵のいぶせきに 卯花くたし五月雨ぞふる
(堀河院御時百首和歌 夏 藤原基俊)
△五月雨サミタレ
さみだれに物思ひをれば時鳥 夜ぶかく鳴ていづち行らん
(古今和歌集 三夏 きのとものり)
△夕立
ゆふだちの雨ふるごとに春日野カスガヌの 尾花の上の白露おもほゆ(萬葉集 十秋雑歌)
夏の日のにはかにくもる夕立の おもひもかけぬ世にもあるかな(古今和歌六帖 一天)
立ぬるゝ人しもあらじあづまやに うたてもかゝる雨そゝぎかな
(源氏物語 七紅葉賀)
△時雨シグレ
時待ちておつるしぐれの雨やめて あさかの山のうつろひぬらむ(萬葉集 八秋相聞)
龍田川錦おりかく神無月 しぐれの雨をたてぬきにして
(古今和歌集 六冬 よみ人しらず)
木がらしのふくにつけつゝ待しまに おぼつかなさのころもへにけり
あひみづてしのぶる比の涙をも なべての秋の時雨とやみる
(以上 源氏物語 十榊)
△霤アマダレ・アマシタリ
かきくらしはれぬ思ひのひまなきに あめしづくともながれける哉(拾玉集 一)
△潦ニハタヅミ
みたゝしの島を見るときにはたづみ 流るゝ涙止めぞかねつる(萬葉集 二挽歌)
はなはだもふらぬ雨ゆゑ庭立水ニハタヅミ いたくなゆきそ人の知るべく(同 七譬喩歌)
世の中はありてむなしきにはたづみ おのがゆきゆき別れぬる身を
(古今和歌六帖 三水)
五月雨やはれず降らん庭堪草 行かたもき花のゆふぐれ(蔵玉和謌集 夏)
△沫雨ウタカタ
うたかたもいひつゝもあるか吾あらば 土には落じ空にけなまし
水の面にうきてたゞよふうたかたの また消ぬまにかはる世の中
おもひ川絶ず流るゝ水のあわの うたかた人にあはで消めや(以上 倭訓栞 前編四宇)
ふりやめば跡だにみえぬうたかたの きえてはかなきよを頼むかな
(後撰和歌集 十三恋)
△雑載
こちふけば雨けにつどふ浮雲の かきあつめてぞ物はかなしき
(夫木和歌抄 十九雨 為家卿)
こぬ人を雨のあしとは思はねど ほどふることはくるしかりけり(古今和歌六帖 一天)
君をおもふかずにしとらばをやみなく ふりしく雨のあしはものかは
ふる雨のあしともおつるなみだ哉 こまかに物をおもひくだけば(以上 世事百談)
あづまやの まやのあまりの 雨そゝぎ ふれ立ぬれぬ そのとのとひらかせ
(催馬楽)
子はながし丑は一日寅は半 卯は一時とかねてしるべし
曇りなば雨とさだめよふりふらず ちらちらちらと天気なりけり
(以上 三養雑記 一)
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