069 「いちしの花」 ○路ミチの辺ヘの 壹師イチシの花の いちしろく 人皆知りぬ あが恋妻は 作者未詳・巻十一 − 二四八〇 晩春、近鉄吉野線橘寺駅から桧隈大内陵への道を辿りますと、天武天皇と持統女帝の 合葬陵に至ります。一面に蓮華レンゲ畑が続き、道端には蒲公英タンポポ、すかんぽ、雀の 鉄砲、車前草オオバコなどが生えています。 「ほら、あそこにすかんぽ見たいな長い茎で、白っぽい緑色の穂のような花を着けた 草があるでしょう。あれがぎしぎしですよ。この歌に出てくる壹師イチシは、恐らくぎしぎ しであると思いますね。えごのきと云う、初夏に白い花を垂らす木であるとの説もあり ますが」。 「道のほとりの壹師の花のように、はっきりとみんなに知られてしまったなあ。私の 恋しい妻は」。 見上げると、もう初夏のような空です。取り巻く青い山々を白い雲が横切っています。 「あの白い雲が目立つように、はっきり私と微笑み交わし、人に知られてはいけません 」と。 青山を 横切る雲の 著イチシろく われとゑ(咲)まして 人に知らゆな 大伴坂上郎女・巻四 − 六八八[次へ進む] [バック]