39 日本人の創った色(黄)
 
〈黄〉
 中国の伝説の王に、「黄帝コウテイ」と云う人がおりました。中国には三皇五帝と云う八
人の聖人伝説がありますが、黄帝はその五帝の中で一番崇められていました。それは彼
によって、衣服を始め船、車、家屋、弓矢など、生活に密着した欠かすことの出来ない
ものが発明されたと云われています。
 また前述の五行思想でも「黄」は中央にあります。
 このように「黄」は、歴史的に中国において尊ばれて来ました。
 
 わが国で黄色の染料はイネ科の「刈安」で、有名な産地は滋賀・岐阜県境の伊吹イブキ山
です。「伊吹苅安」と云います。
 伊豆七島の八丈島に「黄八丈」と云う有名な絹織物があります。これは島内の植物染
料を使って染められた黄色、黒、鳶トビ色などの絹糸で織られる八丈絹の中で、黄色を主
とする縞織物を云い、この黄色の染料はイネ科のこぶな草です。「八丈刈安」と云いま
す。
 
 このほかミカン科の黄蘗キハダ、楊梅ヤマモモ、支子クチナシなどがあります。
 黄蘗はミカン科の落葉樹で、樹皮の内側の黄色いコルク層を煎じて作ります。
 楊梅はヤマモモ科の常緑樹で、その樹皮を煎じた液で染め、明礬ミョウバンで発色させれ
ば黄色に、鉄分で発色させれば茶色になります。楊梅を「渋木」と呼ぶのは、黄褐色に
染めると柿渋と同じように耐水性を増すためです(『和漢三才図会』)。
 支子はアカネ科の常緑低木で、秋に熟す黄赤色の実を染料とします。
 ザクロ科の落葉高木「安石榴ザクロ」は、果皮を乾燥させたものを染料とします。
 「鬱金ウコン」はショウガ科の多年草で、地下根茎を黄色の染料や香辛料、薬用にしま
す。鬱根の香りを虫が嫌うので、木綿に染めたものは鬱金文庫と云われる古美術品の包
みや反物の上巻きとしても用いられます。
 沖縄では、街路樹に植えられているオトギリソウ科の「福木フクギ」を黄色の染料とし
ます。琉球尚王朝では、紅型ビンガタでも織物でも黄色は王族だけのもので、禁色キンジキと
されていました。
 ウルシ科の櫨ハゼの芯材を煎じた液で染めれば波自色ハジイロ(櫨色)となり、この黄色
に蘇芳スオウを重ねると、黄櫨染コウロゼンと云う特別な色になります。
 
関連リンク 「刈安」
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