35 染色考
 
                       参考:吉川弘文館発行「古事類苑」
 
                    「染工は糸又は織物を染むる工人を謂ふ。
                   而して紺を以て染むるものを紺掻と云ひ、紅
                   を以て染むるを紅師と云ひ、紫を以て染むる
                   を紫師と云ひ、此等を総称して染物師と云ふ。
                   紺屋は本は紺掻の家を謂へど、後には汎く染
                   物師の家をも謂へり云々」     SYSOP
 
△染色を詠める和歌
(前略)ぬばたまの くろきみけしを まつぶさに とりよそひ おきつどり むなみ
るとき はたたぎも これはふさはず へつなみ そにぬぎうて そにどりの あをき
みけしを まつぶさに とりよそひ おきつどり むなみるとき はたたぎも こもふ
さはず へつなみ そにぬぎうて やまがたに まきし あたねつき そめきがしるに
しめころもを まつぶさに とりよそひ おきつどり むなみるとき はたたぎも こ
しよろし いとこやの いものみこと(下略)(古事記 上大国主神)
 
呉藍クレナイの八塩ヤシホの衣あさなさな なるとはすれどいやめづらしも
                       (萬葉集 十一古今相聞往来歌類)
 
雲とりの綾の色をもおもほえず 人をあひみで念のへぬれば(大和物語 下)
 
ちはやぶる神代もきかず立田川 から紅にみづくゝるとは
                        (古今和歌集 五秋 業平朝臣)
 
緑子ミドリコの 若子ワクコが見には(中略)うなつきの 童子ワラハが見には 結幡ユフハタの 袂
ソデつけ衣 きし我を(下略)(萬葉集 十六有由縁雑歌 竹取翁)
 
かしはぎのゆはだそむてふむらさきの あはんあはじははひのこゝろに
                               (袖中抄 十五)
 
壷こうの只一しほのそら色に 光そへたる秋の夜の月(七十一番歌合 上)
 
常盤なる松のみどりも春くれば 今一しほの色まさりけり
                    (同(古今和歌集 一春 源宗干朝臣))
 
うとくなる人の心の花浅黄 いくしほそめて色あがるらん(東北院職人歌合)
 
紅の 赤もすそひき 山藍もて 摺れる衣キヌきて たゞ独り いわたらす児コは 若草の
夫ツマかあるらむ(下略)(萬葉集 九仁徳)
 
恋しくばしたにを思へむらさきの ねずりの衣色にいづなゆめ
                      (古今和歌集 十三恋 読人しらず)
 
陸奥の忍ぶもぢずり誰ゆへに 乱れむと思我ならなくに
                  (古今和歌集 十四恋 かはらの左大臣源融)
 
(前略)やまかたに まきし あたねつき そめきがしるに しめころもを(下略)
                           (古事記 上 日子遅神)
 
河内女カフチメの手染めの糸をくりかへし 片糸にあれど絶えむと念へや
                             (萬葉集 七譬喩歌)
 
△染色考
 
真紅
緋
あかね 或は「すはう染」又「まがひ染」とも云ふ。
花いろ 古名「はなだいろ」
あさぎ 正名「うすはなだ」
 
升花いろ 三升の好む所、濃きを「のしめ花いろ」と云ふ。
水浅黄 俗に「のぞき色」とも、又「かめのぞき」とも云ふ。
そらいろ 又「中チウいろ」と号は、「花いろ」よりうすく、「あさぎ」よりこきゆゑに、
 間のいろと云ふ心を唱ふるなり。
こん 古名「深縹」
るりこん 一名「からすばいろ」と云ふ。
 
紫 「濃染」
あやめ 「あゐ」がちたるを「きゝゃう」と云ふ。赤みがちたるを「あやめ」ととなふ。
紅碧ベニトドリ 俗に「べにかけそらいろ」と云ふ。
紅かけ花いろ 古「薄ふたあゐ」
こん桔梗 赤味がちたるを「こん藤いろ」と云ふ。
 
ふぢいろ 「あゐふぢ」「紅ふぢ」の二種あり。
うこん そこにあかみなきを「黄染」と云ふ。
銀すゝき竹 一説に宗佐の好む所と云ふ。
山ぶき茶 古名「支子クチナシ染」
しら茶 「おりいろ」、染いろの差別により、濃薄の二種あり。
 
黄茶 応永年中、「蘭茶」と云ふ、世の人蘭と乱の声あひにたるをいみて、もちゐざ
 るよし。よって今「らん茶」の名たえたり。
玉子 古名「あさぎ」
びわ茶 俗に「かはらけいろ」と云ふ。
くろ 上品を「びんらうじぞめ」と云ふ。下ぞめ「あさぎ」なるを「吉岡染」と云ふ。
黒とび
 
こげ茶
くろ茶 一名「けんぼういろ」
黒紅梅 古名「濃二藍」、俗に「くろべに」
せん茶いろ
かちん 俗に「こんけし」と云ふ。或ひは□□染。又「かついろ」と云ふは別種なり。
 
とびいろ 古名「ひはだいろ」
すゝ竹
くり梅 当時通称「しくわんシカン茶」と云ふは、此のいろと「ゑんしう茶」の中間を云
 ふ。
くりかは茶 往古の烏皮クリカハは、「くろかはいろ」と云へる事にて、今云ふ「八わた黒
 」に同じ。
ひごすゝ竹
 
百塩茶
丁子茶 「香染」とも云ふ。
赤紅梅
もゝいろ 本説「うすこうばい」
ときは色 一名「しののめいろ」
 
桜色
あらひ柿 また「薄かうじ」と云ふ。
紅かば 一名「紅かうじ」、俗に「紅うこん」と云ふ。
しやれ柿 或は「うすがき」
かきいろ
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