24b  《現代水墨画》
 
   3 日本の自然
   
   (1)自然の捉えトラエ方
    自然に対するものの見方は,時代とともに変わってきました。古
   代人にとって自然は,神秘的なものとして目に写ったようです。特
   に中国では,険しい山嶽には神仙人が住むという思想があり,人を
   寄せ付けない峨々ガガたる山塊が描かれていて,宗教的な雰囲気が
   漂っています。また日本の古代人にとっても,自然のあらゆるもの
   − 空,山,木,花,雨,水,風 −には,何か聖なるものが宿っ
   ているという信仰がありました。古代の人々は,殆どが自然条件に
   大きく左右される農耕生活をしていましたので,自然との結びつき
   も一層強いものがありました。
    こういった原始宗教的な自然は,やがて仏教の発展・浸透ととも
   に,迷信扱いされたりして影を薄くしていきます。わざわざ題材を
   急峻な山岳に選ばなくても,身近な景色の中に十分興味を引きつけ
   られていきます。自然を趣味的に見るという考えです。
   (2)水墨画と風土
    唐の時代,中国大陸の北部華北の,気候は厳しく,その風景は荒
   れています。そこで生まれた水墨画を北画といいますが,風土の影
   響を受けて強い筆力で山骨を鋭く表現するという厳しい迫力に満ち
   ています。
    南宋の水墨画は南画と呼ばれますが,その特徴は濃淡の変化に富
   む潤いのある柔らかさです。水墨画の世界に一大革命をもたらした
   南画の背景には,南宋の地理的条件が大きく反映しているのです。
    南宋は,中国南部の江南という地方です。豊かな太陽の光,青空
   に浮かぶ白雲,水気に潤んだ山野の緑に溢れる地です。湿潤な気候
   の中で霞や雨も多く,「暈しボカシ」の技術にみるような独特の世界
   を拓いていきました。
   (3)日本の風土
    南画として日本に渡来した水墨画は,直ぐに日本人に受け入れら
   れましたが,これは南宋の風土と日本の風土が大変よく似ていたこ
   とにあります。
    日本列島は,変化に富んだ山河に恵まれ,動植物もそれぞれの気
   候風土に合った種類が沢山あります。またモンスーン気候がもたら
   す夏の太平洋側の多雨,冬の日本海側や北部の多雪にみられるよう
   に,豊かな水気が特徴です。豊かな水は,私共日本人を水に親しみ,
   水を愛する民族にしてくれました。「滲み」もこのような水の恩恵
   なくしては育たなかったことでしょう。
   (4)景勝地
    近江八景は,南宋の瀟湘ショウショウ八景を真似たものですが,「瀟湘
   八景」は,揚子江(長江)南岸の洞庭湖付近の有名な風景を水墨画
   に描いたものです。
    暮雪ボセツ,夜雨ヤウ,青嵐セイラン,帰帆キハン,晩鐘バンショウ,落雁ラクガン,
   夕照セキショウ,秋月シュウゲツが画題となっています。日本人は,室町時代
   に渡来したこの八景画をお手本として,次第に日本の風景画を作り
   出していきました。琵琶湖周辺の近江八景も,こうして生まれまし
   た。
   (5)独創的な画風
    時代が下がるに従って,水墨画も次第に定式化し,活力に乏しい
   ものになってきましたが,江戸時代後期,浮世絵派からでた安藤広
   重と葛飾北斎によって,風景画(版画)に全く新しい境地が拓かれ
   ました。
    広重の「東海道五十三次」にみられる日本独特の風景感や,北斎
   の「富嶽フガク三十六景」にみられるユニークな構図は奇異な印象を
   受けるほど独創的な画境です。
   
   4 水墨画の題材
   
    水墨画は,題材によって次のように区分されます。
    @花鳥画:静物画,動物画
    A山水画:風景画
    B人物画:道釈人物画
         風俗画 − 美人画,歴史画
         人物画
         仏画
   (1)花鳥画
    四季の花のほか,野菜や果物など植物全般が題材となります。
    また野鳥のほか,身近な家禽や山野の昆虫などの小動物も含まれ
   るでしょう。
    花,鳥はそれ自身,単独でも立派な題材ですが,例えば梅の枝に
   鴬,睡蓮の花の下に魚が群れているなど,いろいろな題材を組み合
   わせることによって,一層奥行きの深い作品になります。
    古い中国の想像上の動物− 麒麟キリン,唐獅子,鳳凰ホウオウ,竜リュウ
   −なども,過去の時代によく描かれました。
   (2)山水画
    古くから伝わる山水画は,例えば東洋が生んだ独自の思想である
   禅の世界観を表現しようとしたものもあります。このような山水画
   は,作者が風景から受けた印象を自分なりに解釈して作り出す心象
   風景といってよいでしょう。
    風景画は,近所の神社の木立ち,街並みの佇まい,タワーからの
   夜景などにも画趣は求められます。
   (3)人物画
    達磨ダルマ大師の像など,禅宗の影響を受けた仏画の多くは,真の
   道を求めて苦悩している姿にこそ理想を見いだすとして,険しい表
   情をしています。
    人物画,特に顔の輪郭(骨格)をマスターするだけでも,可成り
   勉強をしなければなりません。身近な人を題材に,楽しい連想を広
   げてみて下さい。
   
                   参考:日本美術教育センター
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