23c 《現代水墨画》
〈松の描法〉
△松について
松は男性的な力強さを感じさせ,また一年中緑を絶やしません。
樹木につく斑点が亀甲形であるため,「亀は万年」と長寿の意味を
含み,葉は必ず2本1組になっているところから夫婦和合も象徴し
ています。
縁起物として「松竹梅」と並び称されるされますが,この三つの
取り合わせを「歳寒三友」ともいいます。
△松の種類と特徴
葉のつき方や幹の色や大きさによって,次のように分けられます。
①赤松:葉は2本ずつ1対につき,細めで柔らかです。幹は赤っ
ぽい色をしています。
②黒松:葉のつき方は赤松と同じですが,太めで硬い葉で,幹は
黒っぽい色をしています。
③大王松:葉が長く垂れ下がっています。
④ハイ松:葉は5本ずつつき,幹が地面に這って,高い山に生え
ています。
⑤御用松(五葉松):葉が5本ずつつき,庭木によく植えられま
す。
△四季の表現
いずれも常緑樹ですが,春になりますと古い枝の先に新しい枝が
伸びて,その先に雌花メバナの集まりができます。雄花オバナは根元に
かたまってできます。松笠は雌花が熟して枯れたものです。
新しい枝は,毎年枝先から数本出ます。その中の勢いのよいもの
が中心の枝となり,ほかは横枝になります。
また,松は場所によって生え方が違います。浜辺,断崖,山,峠
など,ところによって異なる幹や枝振りの特徴をつかむとともに,
雪をかぶった松,正月の門松,台風にびくともしない松などは季節
感がよく現れている良い例です。
1 松葉の描き方
①左向きの葉は,淡墨に穂先に軽く中墨をつけ,直筆で針のよう
な細い葉を描きます。続いて2本目の葉を1本目の葉先よりいく
らか上の方から描き始め,葉元でくっつけて一対の葉ができます。
②葉受けを同じ太さでV字形に,短めに描きます。
③右向きの葉は葉元から描きます。筆が震えないように運筆に速
度をつけて描いて下さい。
④風景画や山水画では,左右バランスよく,側筆の面描きでボリ
ュームを出して描きます。
2 小枝の描き方
①中墨の直筆でやや反り気味に中心の小枝を描きます。途中で筆
を止めて節を入れ,根元の方が太くなります。
②小枝の先に濃墨の直筆で雌花を,猫の足跡に似せて3点を入れ
ます。
③左右に分かれる2本の小枝もやや反り気味に描いて下さい。小
枝は滲みが出ないようにしましょう。雌花は中心の枝の雌花より
も小さめに描きます。
④葉は斜め上から引き下ろして下さい。隣り合った葉を交差させ
ますと,松葉のかたまりを表現できます。
3 枝の描き方
①松の枝は,小枝を斜め上に左右対称に出し,枝に多くの屈折を
つけます。特に大木になればなるほど,曲がりくねっている枝を
多く配し,そして樹皮が斑に剥がれて,亀甲形の模様を形づくっ
ていきます。
②上方の枝の斑点は中墨,太い幹の方は濃墨,雌花は濃墨,葉は
淡墨で描きます。
③松笠は小枝の出ている元から左右に二つ,濃墨の小さな点を楕
円形に打ちます。
4 割り筆での松葉の描き方
松の葉は,あらかじめ筆の穂先を割って描く方法があります。松
葉や薊アザミなど,とげとげしいものを表現するときによく使われま
す。強い北風によって松の枝が跳ねている情景を描き表すこともで
きます。
しかし,割り筆は,小さな画面の中で多用しますと表現が雑にな
ります。
割り筆は,筆の穂を口で噛み,穂先を割る方法と,皿の中で筆を
割る方法があります。
①淡墨を穂にたっぷり含ませて,絵皿に穂全体を強く押しつけま
す。そのままの状態で指先で筆軸を転がすように筆を回し穂先を
広げます。
②そのまま紙面におろし,穂先に力を入れて筆圧を出すように,
手早く描きます。
5 幹の描き方
赤松の幹は白い部分を多く残し,黒松の幹は白い部分は少なめに
します。
松の幹の特徴は,樹皮に亀甲模様がついていることと,枝が折れ
てそこに空洞ができていることです。この空洞を虚ウロといい,古木
の幹には必ず描きます。
松の幹は,三墨法を含ませ,松の幹の堅さと勢いを表現するため,
根元から上に側筆で描きます。
①中墨の側筆で2筆で描きます。
②白い部分に側筆で点を打ち,濃墨をつけて穂先を整えて虚を入
れます。
③濃墨の直筆で亀甲のような樹皮を一つ一つ描きます。枝の付け
根まで墨をつけ足さないで下さい。
④細くなってきた幹や枝は,墨点の大小や滲みなどを用いて幹の
質感を表現します。
参考:日本美術教育センター
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