23b 《現代水墨画》
4 梅ウメの描法
わが国の梅との付き合いは古く,萬葉集には梅を詠んだ歌が119首
もあります。
また,菅原道真公の「東風コチ吹かば匂おこせよ梅の花,主なしと
て春な忘れそ」は有名な歌です。
梅の花は葉に先立って開き,一つところにまとまって2,3個の
花がつきます。花弁も3㎝以上の大輪のもの,一重・八重があり,
白色,淡い紅色,濃い紅色などがあります。蕊シベの数も50本もあ
り,花の描法の練習には大いに役立ちます。
梅の萼ガクや枝,幹の描き方は,他の草花や大木などを描く場合に
も応用できます。
白梅は線描きし,紅梅や夜梅は附立てで描きます。
①紅梅の蕾ツボミの描き方
梅の蕾は,枯れ枝に描いたり,一つの枝だけに沢山ついていた
り,一カ所に蕾を集めたりしないようにしましょう。
紅梅の蕾は附立てで,微かに膨らんだ花弁ハナビラを濃墨,萼ガク
を中墨で描き分け,真ん中にほんの少し白い部分を残すようにし
ます。
まず穂先に濃墨をつけ,蕾の花弁の部分を点打ちします。続い
て二つ目の点を並べるように添えます。点の滲みニジミがあまり広
がらないようにします。
三つ目花弁は,二つ目の花弁を受ける感じで小さな半円を描き
ます。3枚の花弁がくっついた状態で,真ん中にほんの少し白い
部分を残して下さい。
萼は蕾の間から覗く程度なので,花弁のくびれのところへ中墨
で3点打ち,仕上がりとします。
②紅梅の開花の描き方
梅の花には蕾から,咲き始め,半開き,満開,しぼみかけてい
るものなどの開き具合と,正面,右向き,左向き,下向き,後ろ
向きなど見る角度によって,その形はいろいろ違っています。い
ずれも先が尖っていたり,まん丸くなったりしないように描いて
下さい。
まず三墨法で,側筆の附立てで手前の花弁2枚を描きます。い
ずれも花弁の先が濃く,下が淡くなるように筆を寝かせ気味にし,
花弁の厚みを出します。
4,5枚目を描くに従って,向こう側の花弁らしく薄く描かれ
ます。
向こう側の花弁をバックに,濃筆の直筆で数十本の蕊シベを描
き,続いて蕊の頭にバランスよく花粉を墨点打ちします。
最後に濃墨の直筆で,手前の花弁の窪みに2点描き入れます。
③紅梅の特徴
紅梅は八重に咲き,丸みがあります。花弁の重なり合うふくら
みと鮮やかな紅色を表現するために,三墨を含ませた附立てで描
きます。萼や蕊を入れる位置や墨色にもいろいろ変化を持たせて
下さい。
④紅梅の枝
紅梅の枝は雑木に近い伸び方をし,あまり重なり合うことがな
く,先の方で幾つにも分かれています。また白梅にように1本の
枝からできる女字形でなく,他の枝と組み合わさってできる女字
形が多く,苔が目立たない代わりに棘トゲのような枝があり,これ
に花が咲きます。
新芽をつけている若い枝は,枝先に向けて速度をつけ,生命感
を表現することが大切です。
⑤白梅の蕾の描き方
白梅も紅梅も蕾は蟹の目のように描きます。
中墨をつけた直筆で小さな円を太くならないように描き,続い
て円を3分するようにします。
周りに濃墨で萼を3点描き入れます。
⑥開花した白梅の描き方
主に上向きに咲いているものを描きます。
少量の中墨で下辺の花弁を2枚並べて描き,上辺中央は大きく,
その左右は中間の大きさで描きます。
下辺の花弁の間に,濃墨の直墨で萼ガクを入れます。正面を向い
た花には萼を入れず,また後ろ向きの花は萼の位置が中心となり
ます。
萼の上に,花の芯を萼より小さな丸い点を穂先を廻すようにし
て描き入れます。
太い線,細い線の蕊シベを柔らかく表現し,蕊の上部に花粉を直
筆で点打ちして下さい。
⑦白梅の向きいろいろ
真正面を向いた花弁はきちんと揃い,後ろ向きは少し不揃いに
描きますと自然に見えます。
7分先の花は5弁が見え,半開きは3弁しか見えないこともあ
るのです。
⑧白梅の花と枝の組み合わせ
花は適当に散らばり,同じ向きの花を二つ並べないようにして
下さい。
老枝は淡く,若い枝や細い枝,短い枝などは濃墨で描きます。
花の大きさと枝の太さのバランスにも気をつかって下さい。
⑨枝の描き方
若い枝には棘トケーは多すぎないようにし,枯枝には芽や蕾を描か
ないようにして下さい。
白梅の枝は女字形に交差させ,奧の枝は薄く手前の枝は濃く描
いて下さい。短い小枝は牛の角のように太く力強く描きます。
花は,正面を向いている花から順に,上向きの花,後ろ向き,
半開き,蕾とバランスをとりながら枝に描き入れます。花弁は淡
墨,花芯と萼は濃墨で描き,花芯は真ん中から描き,やや放射状
に線を引き,花粉を点描します。最後に萼と棘を描いて出来上が
りです。
⑩幹と枝の描き方
白梅の幹は,その姿が竜と似ていることから,横に這うように
伸びる梅木を臥竜ガリョウ,上へ立つように伸びる梅木を幡竜ハンリョウ
といいます。
幹は側筆で下から上へ描き,力強さを表現します。墨の潤渇ジ
ュンカツと筆運びの遅速に気をつけ,ごつごつした感じに描いて下さ
い。若木は墨をたっぷり含ませ,老木は渇筆でかすれを多く出し
て描き,いずれも幹の輪郭に起伏をつけましょう。かすれた部分
には側筆で点苔を入れ,梅の木の堅さと質感を表現するようにし
て下さい。
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