23  《現代水墨画》
   
   〈四君子の描法〉
   
    △四君子シクンシについて
    四君子とは,蘭,菊,梅,竹のことです。
    中国は明時代,当時の文壇の大御所で詩文書画において名声をは
   せた陳継儒チンケイジュが「梅蘭竹菊四譜」の中で梅蘭竹菊を四君子と呼
   んだのがはじまりといわれています。いずれも,その姿が高潔であ
   ることを称して,徳の備わった君子にたとえて,四君子といわれる
   ようになりました。
    蘭は,深山幽谷にあって,春に花を開き,その芳しい香りは人の
   心を浄化するといわれます。また可憐な花と対照的に,すんなりし
   た抑揚ある葉が必死に花を守っている姿は,風情を感じさせます。
   塵俗を嫌い,風露に清らかな香りを漂わせるその花には,貴人の風
   格があるとされています。
    竹は天を目指して真っ直ぐに伸びる純粋さと,雨や雪に耐え,ど
   んな強風や嵐にあおられても折れない堅固さがあります。また幹の
   中が空洞なのは,虚心にして,無欲である君子の節操にたとえられ,
   四君子の中でも君子であると尊ばれています。
    梅は,厳しい冬の寒さの中で,いち早く花を開き,芳しい香りを
   放ちます。寒さに凍コゴえた人々の心に,安らぎと,潤いを与える優
   しい花は,君子そのものであるといわれています。また樹の幹もど
   っしりと落ち着き,その毅然とした姿が気高く品格があるとされて
   います。
    菊は,秋も深まり霜が降りて百花が咲き終わって枯れ果てた後に
   も,孤高として美しい気品溢れる花を咲かせ,その優雅な香りで人
   を魅了します。また菊には,素朴で清楚な野菊から,華麗で荘重な
   大輪菊までいろいろな種類があり,四季を通じて開花し,様々な美
   しい表情を見せてくれるため,古来より詩に文にと多くの人々に愛
   されてきました。中国では,菊は長寿の薬として大切にされ,わが
   国では尊い紋章にさえなっています。
   △四君子から学ぶもの
    四君子は四季を通じての題材として,蘭が春,竹が夏,菊が秋,
   梅が冬となっています。その精神的な拠りどころとは別に,水墨画
   の表現技法の基本として重要な素材です。これは書を学ぶのに「永
   字八法」といって,「永」の字について八法を練習習得するのが,
   書道入門の道であるとされているのと同じことです。
    画法としてみた場合,蘭は直筆による曲線の代表的なものであり,
   草の葉すべて蘭の葉の応用となっています。また竹は側筆を使って
   の直線であり,切り立った山や高く聳える樹木を描くのに繋がって
   います。梅はかすれた側筆で幹を表し,枝を直筆・側筆で描き分け
   ます。その枝の組み方,すべての木の基本となる女字形ナジケイに象徴
   されます。その他,梅は勇壮な山岳などの太い線の変化などに応用
   される表現内容を持っています。菊は草の中でも木に近いものであ
   って茎と言わず枝と表現し,草と木の中間として学ぶべきものがあ
   ります。小さな樹木を描く場合の線として,相通じるものがありま
   す。
    このように四君子には,描法の基本として学ぶべきものが数多く
   あります。
   
   1 蘭ランの描法
   
    春蘭シュンランの花は,5枚の花弁ハナビラと花芯(心点),そしてそれ
   を支える茎と苞ハカマによって構成されています。
    @開花の描き方
     蘭の花は,半開きのときは横に傾いて咲き,満開になると上を
    仰いで咲きます。
     筆に淡墨を含ませ,穂先に中墨をつけて,直筆の附立てで,5
    枚の花弁を立体感のあるように一気に描いて下さい。
     次に中墨の直筆で茎を描き,茎に添うように二つの苞を描きま
    す。
    A花芯の描き方
     蘭の花心は,その形が心に似ているので,心点とも呼ばれ,花
    に命を与える中心となるべきものです。心点の描き方には,三点
    法,四点法,五点法があります。
     四点法の場合,穂先に濃墨をつけ,1点目は花弁の外側に,2
    点目は花弁の中心に,3,4点目は2点目を囲み込むように,い
    ずれも穂先で描いていきます。
    B葉
     春蘭の葉は自由で伸び伸びとした曲線が特徴ですので,描き方
    も自由な運筆で,葉元は緩やかに,葉先は勢いよく描いて下さい。
    C土から根が出ている露根ロコンの蘭は,根の逞タクマしさを表現して
    下さい。
    D岩に蘭
     岩にしっかりと根を張り,生命力豊かに咲く蘭は,岩は逞しい
    男性美,蘭の花は女性美を表現してみて下さい。
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