22a  《現代水墨画》
 
   〈側筆の要点〉
   
   1 はじめに
   
    竹の幹は,側筆の運筆の最も基本となる描法で,竹の描法を学ぶ
   ことによって,側筆と直筆の運筆が習得できます。
    成長した竹は,大きく根,幹,節,枝,葉に分けられますが,幹
   は側筆,節,枝,葉は直筆で描き,作画では根はあまり描きません。
    竹が画題として古くから好まれた理由は,まず竹の持つ強靭な性
   質と,その簡潔な姿態の持つ清楚さにありますが,又は霧や雪など
   季節や天候の変化を併せて表現できるまたとない題材でもあります。
   
   2 竹の幹の描き方
   
    竹の幹は,三墨法に従って筆に墨をつけ,側筆で一気に描きます。
   筆軸を右に倒して筆全体を使って描いた場合,穂先の濃墨から右の
   方に段々薄くなり,この変化が竹の丸みを表し,筆を一気に運ぶこ
   とが,竹が空に向かって伸びていく勢いを感じさせます。
   
   (1)側筆の練習
     まず,濃墨,中墨,淡墨の3色を作り,筆に淡墨を含ませ,そ
    の先に濃墨をつけて絵皿の縁で穂先を均します。そうしますと,
    1本の筆の穂に,先端は濃墨,中間は中墨,軸の近い方は淡墨の
    3段階の色が作られます。
     筆軸を向こう(前方)に倒し持って,筆は穂先から腹の方まで
    紙におろし,一気に右方へ引きますと,下側が濃く,上側が薄い
    横一線が描かれます。穂先だけに力をいれず,筆全体に力を入れ
    て下さい。筆をいろいろな方向に倒して,いろいろな角度の線を
    描きましょう。
   
   (2)下から描く
     竹の幹は,下から上に描いていくのが普通です。このことは,
    根元が太く,上の方になるに従って,墨の色も薄くかすれて細く
    なるのが自然だからです。他のあらゆる木竹の幹を描くときも同
    じです。
     @三墨法に従って筆に墨をつけ,筆軸を右に倒して,下から上
     へ一気に描きます。
     A節と節との間では,筆を押さえるように止めて,墨の滲みニジ
     ミを見ながら,出っ張った感じを表します。あらかじめ,節々
     の位置や描く方向の見当をつけておきましょう。
     B筆は上の方を持ち,手は下につけないよう,腕を大きく伸ば
     して,一節一節勢いをつけて,そして一定の速度で描いて下さ
     い。墨のかすれが,竹の勢いを感じさせます。
     C孟宗竹のような太い竹は,左右2線を描いて1本の幹にしま
     す。
   
   (3)上から描く
     掛軸などのように長い竹を描くときは,手の届くところまで下
    から描き上げ,腕の伸びきったところで上から描いて繋げるとい
    う方法を採ります。上から描く部分は,継ぎ足したことが分から
    ないように,下から描いた幹よりも墨を薄くします。
   
   (4)斜めの幹を描く
     竹に雪が積もっていますと,幹が斜めにしなっていきます。
     右方に傾いた幹は,筆を向こうに倒して,丸い山のような半円
    を描くように筆を引いていきます。このときの筆の持ち方を逆側
    筆といい,下側(内側)は濃く,上側(外側)は薄く描かれます。
     左方に傾いた幹も同じように描きます。下側(内側)の墨を濃
    くするということは,見た目に強さを感じさせるからです。
   
   3 節の描き方
   
    幹の墨が乾かないうちに,節と節目を濃墨で描き入れます。乾い
   てしまいますと,節らしい滲みが表現できないからです。
    @節は,筆をよくすすいで筆洗の縁でよくしごき,穂先に濃墨を
    つけて,「一」の字を書く要領で,軽く,細く,素早く描きます。
    A節の両脇に節目を入れます。節目は穂先で点を打ち,少し跳ね
    るような気持ちで描いて下さい。
    B根元近くの節(数段)の間隔は狭く,上にいくに従って間隔は
    長めになります。
   
   4 枝の描き方
   
    枝は,濃墨をつけて下から上へと一筆で描きます。一気に描くこ
   とによって,細さに力強さが加わります。
    @筆の水分を少な目にして,滲ませないようにします。
    A節間の見当をつけ,節のところで筆を止め,少し出っぱらせて,
    次の節へと描いていきます。
    B速度を落とさないようにして描き,枝先は,軽く自然に消える
    ようにスーッと引きます。
    C小枝は,できるだけ細く,鋭く表現しましょう。
    D最後の小枝は,前の小枝と交差するように描きます。この小枝
    を魚骨枝といいます。
   
   5 葉の描き方
   
    葉は,筆の穂先が常に葉の中心を通るように,直筆で描きます。
    葉は,介の字,个の字,魚尾の形,又は燕尾の形などの組み合わ
   せで表現されています。
    奧の葉は薄く,手前の葉は濃墨で描きます。竹らしい葉は,勢い
   よく一気に描くことです。
    風の日,晴れた日,雨の日など自然の風情をしっかり観察してお
   き,その向きや重なりなどの変化を表現して下さい。
    @介字法カイジホウ
     第1の葉は,葉元が丸くならないように筆をおき,墨の滲みを
    待って,少し長めに描きます。2〜4枚目の葉は,第1の葉元を
    中心に扇形内に放射的に描きます。3,4枚目の葉は短い葉とな
    ります。各葉は,それぞれ異なった個性を持って描きます。
    A个字法コジホウ
     第1の中央の葉は,葉元が丸くなるように,紙におろした筆を
    折り返すような感じに少し上に押さえ,筆をおき,墨の滲みを待
    って,少し長めにスーッと描きます。両脇の葉は短めで,ふくら
    みをつくって葉先へと抜きます。各葉は,長さも形も異なった個
    性を持って描きます。
    B魚尾法ギョビホウ
     魚尾法とは,魚の尾の形に似ています。燕尾法エンビホウともいい
    ます。2枚の葉は,長さが同じにならないように描きます。
[次へ進んで下さい]