22 《現代水墨画》
〈直筆の要点〉
1 はじめに
四君子シクンシとは,蘭ラン,菊キク,梅ウメ,竹タケのことです。古来より
水墨画の技法の習得は,蘭にはじまり蘭に終わるといわれておりま
す。四君子は,いずれも草木中,君子の如き高潔な趣きを持つこと
から,特に中国において古くから貴ばれ,水墨画において最も多く
扱われてきた題材です。
蘭を題材にして,蕾ツボミ,苞ハカマ,茎,葉を直筆で描き,また蕾
には心点と呼ばれる花芯を描きます。花芯は「心」という字を用い
る水墨画特有の描法の一つです。
2 準備
用意するものは,附立て筆,液墨,絵皿3枚,筆洗,下敷き,羽
根箒,木炭,半紙,文鎮,布巾などです。このほかには,水匙(ス
プーン),筆置き,新聞紙などです。
次に調墨は,濃墨,中墨,淡墨とし,三墨法によって墨を含ませ
ます。
3 蘭の附立て
(1)手本画の写し
手本画に半紙の裏を上にして重ね,文鎮で押さえます。木炭で
蕾,苞ハカマ,花芯,葉と,その輪郭を薄く写していきます。蕾のふ
くらみ具,四つある苞はそれぞれどのようにかかわり合っている
か,風にそよいでいる葉はどのように表現されているかなど,細
かく観察しながら,そして丁寧に写して下さい。木炭はいつも尖
らして描きます。写し終わったら,木炭のカスが残らないように
羽根箒で払って下さい。
(2)蕾と苞
三墨法に従って,筆に墨を含ませ,直筆で描きます。
@蕾の第1花弁から描いていきます。蕾,苞とも一筆で描きま
すが,墨をつけすぎないようにして下さい。
穂先を静かに紙におろし,始めはゆっくりと墨の滲み具合を
みながら,中間で少し力を入れて,それから筆をスーッと引き
ます。少し外側に丸味がつくような気持ちで描きます。
A第2花弁は,第1花弁に寄り添うような感じに描きます。
B茎を包んでいる苞は中墨で描きます。
(3)花芯
@花芯は濃墨で描きます。一つ目は,第1花弁の外側に小さく
点を描きます。
A二つ目は線を引くような感じで,少し長めの点を蕾の元の方
に入れます。
B三つ目は蕾の中心に,軽く点を入れます。
(4)葉
@葉は濃墨をつけて,直筆の附立てで描きます。一番下の苞ハカマ
の元のところに筆をおろし,思いきり腕を大きく伸ばして,下
から上へと描いて下さい。このように,長い葉を上手に描くコ
ツは,軽く息を止めて,筆を勢いよく運ぶことです。
A手前に垂れている葉は,中ほどまで描き上げましたら,筆を
心もち持ち上げて回し,穂先の向きを変え,スーッと斜め下に
引きます。
B短い葉は,半円を描く気持ちで,下から葉先に向かって一気
に勢いよく描きます。最も短い葉は,葉先から根元の方へと描
きます。
(5)いろいろな葉
@葦アシ(ヨシ)・すすきの茎には節がありますが,葉は茎を包
む葉軸から出ています。葦は直線,すすきは曲線です。
風などで靡いて裏に返った返し葉は,筆の穂先を上げて押さ
えてからスーッと引きます。穂先を上げますと葉が細くなり,
その細くなったところから葉が返ることになります。
A菖蒲とあやめの葉の描き方は同じです。太く面のように描い
て下さい。葉の下に茎の見えない葉は,葉先から元に方へと描
き,茎が見える葉は,元から葉先へと描きます。葉は茎を包む
ようについていますので,茎に少し重ねて,葉の元から葉先へ
と描いていきます。
B水仙の葉の特徴は,葉の裏表の色に違いがあることと,葉先
が丸いことです。葉の色の違いは,裏葉は淡墨で,表葉は濃墨
で描き表します。まず,筆に淡墨をつけ,紙におろします。葉
先の丸みを出すために一呼吸,筆を止めて,滲みを待ってから
スーッと下に引き,返し葉のところで筆を抜くように少し上げ,
再び押さえてスーッと描きます。
直筆の附立て法は,筆先が必ず葉の中心を通りますので,葉
にも勢いがでます。ひるがえった部分は表葉ですので,濃墨を
つけた附立てで墨を入れて下さい。
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