21c  《現代水墨画》
 
   (5)三墨法
     三墨法とは,調墨した濃墨が筆先の根元の方へ滲んでいき,穂
    先から濃・中・淡の順に墨が含まれることをいいます。
     @まず筆を筆洗でよく洗い,筆洗の縁で穂先を整え水気をとり,
     淡墨を含ませます。
     A次に濃墨を穂先から吸わせるように4〜5oほどつけます。
     Bこの淡墨と濃墨を含ませた穂先を,絵皿の縁で軽く丁寧に均
     し整えます。
     この三墨法による墨の含ませ方は,水墨画独特のもので,紙面
    に描いたとき,筆を置いてから描き終えるその一筆の墨跡に,濃
    から淡への自然な「暈しボカシ」ができるのです。
     水墨画では,この一筆一描きの黒色に,この自然な筆勢で描か
    れる,濃から淡への暈しが非常に大切にされます。
     線描と附立て,あるいは直筆や側筆など,その描き方や運筆が
    異なっても,筆に墨を含ませるときにはほとんどこの三墨法によ
    ります。
   
   (6)運筆の基本
     運筆とは筆運びのことですが,水墨画ではその角度や,筆の動
    く方向をいろいろ変化させていきます。
     @直筆
      筆の持ち方は,雙鉤法により筆の中程を持ちます。ただし細
     い線などは単鉤法により持ちます。
      筆に墨をつけましたら,描かれる線の中心に穂先が常にある
     ように筆を運びます。これは線や竹の葉,蘭の葉などを描くと
     きに用いられます。
      直筆の運筆は,描く方向が縦あるいは横,斜めなどに変化し
     ても,描かれる線の中心に穂先がくるように,描かれる線と穂
     先の位置に常に気持ちを集中しましょう。
     A側筆
      側筆の運筆は,筆全体を斜めに寝かせて筆先と筆軸が横に平
     行に移動していく描き方です。筆全体が斜めになって横に動い
     ていき,黒色は穂先から腹,根元にかけて,濃・中・淡の広い
     面が一筆で描かれていきます。下から上へと描きますと,趣の
     ある竹の幹が描けます。
      筆の持ち方は単鉤法ですが,筆軸の中程よりやや上の方を持
     ちますと描きやすく,軽く握って手首をやわらかく,腕全体を
     使う気持ちで描きましょう。
   
   (7)基本の描法
     水墨画の描法は,線描法と附立て法に大別されます。
     線描法は,古くは鉤靱法コウロクホウともいわれるもので,描くもの
    の輪郭を細い線描で描く方法です。線描は細い均一な線で描くこ
    とはあまりなく,線の強弱,その筆勢や味わいが大切にされます。
     附立て法は,没骨モッコツ法ともいわれる描き方で,筆の穂を広く
    使って描くものを面として捉えて描いていく方法です。三墨法に
    よって含ませた墨の濃淡によって,その一筆の中に形ややわらか
    さ,丸味といったものまでも表現しようとするのが附立て法です。
     水墨画及び墨彩画での実際は,線描と附立てをいろいろと組み
    合わせて描いていきます。
     @附立て法
       筆は附立て筆を用います。墨の含ませ方は三墨法で,墨の濃
     淡は描くものによって工夫して下さい。運筆は描く対象によっ
     て変化します。
     A線描法
      線描の運筆は直筆ですが,その線の表情は描く対象によって
     いろいろ変化します。描くものの形態とそのふくらみなどを捉
     えて,その強弱や筆勢を工夫して下さい。
   
   (8)手本画の写し方
     手本にできるだけ忠実に従って描いていくことによって,構図
    と配置,運筆と筆勢,濃淡や滲みニジミ,また様々な描写と表現な
    ど,作画上に必要なすべての要素が徐々に身についてきます。臨
    画を繰り返しながら,その技法を習得し,次第に写生や想像に基
    づく個性のある作品へと進んでいきます。
     木炭の持ち方とその写し方について述べます。
     @まず,木炭は上の方を持ちますので,持つ部分に柔らかい紙
     を巻いておきます。
     A臨画する作品の上に半紙を置きます。半紙は裏面を上にしま
     すと,その後の墨の濃淡や滲みがよく,描きよいです。
     B半紙を文鎮で押さえ,木炭は紙面に軽くなぞるようにして,
     なるべく薄く描きます。
     C手本の線の大小,また濃淡や滲みなどにかかわらず,形の輪
     郭を大まかに描いていきます。
     D手本と写しを並べて比べ,主な部分など写し落としのないよ
     う見比べて下さい。
     E描くものの特徴,全体の構図やものの配置や余白などをよく
     理解しておきましょう。
     F羽根箒で木炭をきれいに払い落とします。紙面に木炭の粒子
     が残っていますと,墨がのりにくくなったり,仕上がりが汚く
     なったりします。木炭で写した跡が,薄く輪郭のアタリになっ
     て,認識できればよいのです。
    
                  参考:「日本美術教育センター」
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