21b 《現代水墨画》
(15)色紙・短冊・画帖・扇子・団扇ウチワ
水墨画では一般に,絵を描いたあとで表装仕立て(裏打ちして,
鑑賞作品用に仕上げること)にしますが,すでにそのように加工
されたものが市販されています。
色紙・短冊:原紙に画仙紙,鳥の子紙,麻紙などを張り,金箔
で縁どりしたものです。大きさはいろいろあります。
画帖:和紙を綴じて作ったスケッチブックのことで,折り畳み
式のものもあります。
また,次のようなものに水墨画を描きますと,なかなか趣があ
ります。
扇子:末広がりを意味する慶事の縁起物として利用され,また
扇形に和紙を切って,茶掛けに表装して床の間に飾ったりし
ます。
団扇:団扇掛けにかけて,床の間などに置きますと,味わいが
あります。
(16)仮り張り・パネル
仮り張り:襖のように四角い木骨を組み,その上から和紙を何
枚も張り重ねて,柿渋を引いた画板のことです。
パネル:木枠を組み,上からベニヤ板を錆止めした釘でとめた
ものです。
2 基本の運筆と描法
水墨画の最も基本となるのは,三墨法・運筆法・描法です。
三筆法とは,濃・中・淡に調墨した墨を筆に含ませて,紙面に一
筆で墨の濃淡を描き出す水墨画独特の方法です。
運筆とは,筆の運び方ことですが,水墨画には直筆と側筆が基本
となって,線や面,又は濃淡や滲みなどいろいろな描写の運筆があ
ります。
描法には大きく分けて線描と,附立てがあります。線描はものの
形態を線によって描き,附立てはものの形態を面よって描くもので,
没骨モッコツ法ともいわれています。
(1)新しい筆のおろし方
@新しい筆を筆洗の底に押さえつけないように,軽くつく程度
に沈め,筆洗の水に1分程度浸けておきます。
A穂先が自然にふっくらと広がりましたら,筆洗の縁でしごき
ます。
B水切りと同時に穂先が真っ直ぐ揃うように,丁寧にしごき,
そのまま布巾か筆置きにおいておきます。筆先を拭き取った後,
すぐに筆立てに立てますと根元に水が溜まって,根元を痛めた
り,悪い癖がつきますので注意しましょう。
(2)筆の持ち方
筆の持ち方には,基本として単鉤法タンコウホウと雙鉤法ソウコウホウがあ
ります。単鉤法は細い字,細かい描写に用いられます。雙鉤法は,
懸腕法ケンワンホウといわれる腕を上げ,肘ヒジが脇腹につかないように
して描く大字の場合に適し,絵ではのびのびとした描写の筆運び
に用います。
どちらの持ち方も,あまり筆先近くを握ったり,軸の先端をに
ぎったりせず,また型や腕,指先に余分な力を入れないよう,楽
な姿勢で,伸び伸びと筆を動かして下さい。
@単鉤法の持ち方
筆の軸の中程を親指と人差し指で持ち,中指で軸を下から軽
く支えるようにして持ちます。この時に親指は筆軸に対して,
なるべく直角になるようにして持ちます。書道は紙面に対して
真っ直ぐに立てますが,絵を描くときは描写するものによって,
その向きや角度はいろいろに変化します。
A雙鉤法の持ち方
筆の軸の中程を親指,人差し指,中指で持ち,薬指で下から
軸に軽く添えることもあります。親指は軸に対して直角になる
ように持ちます。この雙鉤法の持ち方は,腕全体の動きが伸び
伸びとして,筆の紙面に対する角度をいろいろと変化させてい
く水墨画の運筆には,最も適しているといえます。一つの紙面
の中で大きな面や線,あるいは細い線や細部の描写など,筆運
びはいろいろと変化していきますので,そのときの描写によっ
て,筆の持ち方も変化し,その運筆や筆勢にも工夫していきま
しょう。
(3)墨のすり方
昔から「墨は力ではなく心でするように」といわれてきており
す。これは書くということを大切にし,またそのときの用具の扱
い方に細心な心遣いをした古人のことばであると同時に,墨のも
つ特質をよく表しております。
@まず,墨に手の脂がつかないように和紙を巻き,上方から包
むようにしっかりと持ちます。
A硯の面と墨の面が平らになるように,真っ直ぐに持ち,あま
り力を入れずにゆっくりと,前後にすっていきます。
B前後,左右に傾かないように注意しながら,硯の海の墨色が
十分に黒くなるまで,静かな気持ちですって下さい。
なお,短くすりへったものは,自在挟みを使いますと,経済的
です。
(4)調墨
調墨とは,墨に水を加えて濃度を加減して,いろいろ墨の濃淡
を工夫することをいいます。
硯ですったとき,ある一定の黒さになるとそれ以上は黒くなら
ない状態がその墨の持つ最も黒い濃度です。液墨の場合は,容器
から出したときの色合いが最も黒い濃度です。
墨の濃淡は,その加える水の分量によって無限の濃淡ができま
す。水墨画では,この墨の濃淡をまず調墨によって十分に会得し,
その和紙に表れる効果を理解していくことが大切です。
墨の色は,濃墨,中墨,淡墨に大別されます。描くものによっ
て墨の濃淡はさまざまですので,濃墨の濃・中・淡,中墨の濃・
中・淡,淡墨の濃・中・淡というように,一定の濃さの中でさら
に3段階の濃淡の変化をも考えていくことになります。
和紙に描いたとき,濡れているときの黒色と,乾いたときの黒
色とでは感じが異なることも理解しておいて下さい。
調墨は,筆洗でよくすすいだ筆先に墨をつけて,小皿の上でよ
く混ぜるようにして下さい。
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