21a 《現代水墨画》
(12)筆
筆は,水墨画を描く上で最も大切な用具の一つです。一般に水
墨画用の筆は,画筆又は絵筆と呼ばれ,書道用の筆に比べて軸や
穂が長いのが特徴です。
筆は高価である必要はありませんが,運筆の遅速,方向,筆圧,
墨の含み方などを考慮して,あくまでも自分に使いやすい筆を選
ぶことが大切です。
なお,筆を使用した後は,きれいな水でよく洗って,布巾で水
分をよく拭き取り,穂先を揃えておきましょう。
①附立て筆
水墨画において最も多用される筆です。没骨モッコツ筆ともいわ
れ,筆軸も穂先も長くできています。
水墨画の雄大さを表現するときは大,細やかな技巧的表現を
するときは中,小を用います。
筆は穂先が揃っていて,描いたときに穂先が割れたり,バサ
バサしない腰の強いものが良質とされています。毛質では,羊
毛,馬毛,夏季の鹿毛があり,穂先に狸毛を混ぜた「長流チョウリ
ュウ」や「玉蘭ギョクラン」があります。
②面相筆メンソウフデ
面相筆は,人物の髪の毛や,眉,目,鼻などの細かな箇所の
彩色や線を描くのに用いられますので,この名がついています。
面相筆はこのほか,花鳥画や,白描の鉄線画などの細密描写に
多用されます。穂の腰の強いものが良質とされ,毛質が縮れて
いたり,よじれているものはよくありません。
面相筆には,穂先の短い狼狸ロウリ面相筆と,穂先の長い長穂
白狸チョウホハクリ筆とがあります。
③彩色筆
白い柔らかい羊毛(又は茶色の夏毛)で作られ,絵具をたっ
ぷり含ませられるように,毛の分量を多くしています。
普通の彩色筆は穂先の短いものが多用されますが,長峯とい
う穂先の長めのものもあります。
④連筆
連筆は上質の狸毛で作られており,何本かの筆を組み合わせ
て刷毛のような形にしたもので,中心の1本が長い柄になって
います。
連筆は,墨の濃淡,暈しボカシに使ったり,雲,空,海などの
幅広い面を一気に描くときに用います。また,筆跡を残さない
という特徴をもつ便利な筆です。
⑤隈取クマトリ筆
隈取筆は,彩色筆より穂がずっと短く,穂先も丸くなってい
ます。彩色した絵具を暈したり,隈取りなどに使います。
丸味を帯びた葉や花を描くときに,一筆でその表現ができま
す。毛質は,羊毛でできています。
⑥刷毛ハケ
刷毛には,ドーサ刷毛,絵刷毛,水刷毛,空カラ刷毛などがあ
ります。また毛質,穂の長さ,毛の厚みなど用途によって使い
分けします。広い画面を塗ったり,紙に湿りをつけたいときな
どに便利です。
ドーサ刷毛:ドーサを引いたり,紙を湿らせたり,箔ハクを押す
ときなどに使用します。
絵刷毛:刷毛の中で最も多用されます。
空刷毛:水や絵具を含ませずに,乾いたまま用います。
(13)絵具
水墨画は元来,墨の濃淡だけで対象物を表現していくものです
が,例えば身近な花や深みのある紅葉など,墨に「色」をプラス
することでいい味が出ることがあります。
作品に色を使うことによって,墨がその色を引き立てたり,色
が墨を引き立てたりします。
①顔彩ガンサイ
日本画を描くときに用いられるもので,小さな四角い陶器に
顔料を流し込んで乾かしたものです。
胡粉ゴフン(しろ),黄土オウド(かば色),草緑(くさ色),
白緑ビャクリョク(しろみどり),緑青ロクショウ(みどり),朱シュ(し
ゅ色),群青グンジョウ(あお),代赭タイシャ(ちゃ色),藍(こ
ん),臙脂エンジ(あか)などの12色があり,混ぜ合わせて好み
の色を作り出します。
②水彩絵具
チューブに入った12色を写生のときに携帯しましょう。顔彩
の補充用としても使えます。
(14)紙
水墨画では一般に中国産の紙と,日本の和紙とを使います。
同じ対象物を描くとき,紙の種類によって表現効果が違ったも
のになります。
①中国産の紙
仙紙(日本の和画仙紙に対して本画仙紙ともいいます),唐
紙,二双紙などがあります。いずれも墨の滲みニジミ,かすれ具
合がよく,黒色がきれいに出ます。薄手のものは滲みが激しく
破れやすいので,取り扱いに注意しましょう。
②和紙
和紙には,半紙,画仙紙ガセンシ,美濃ミノ紙,奉書ホウショ紙,鳥の
子トリノコ紙,麻紙マシなどがあり,楮コウゾ,三椏ミツマタを原料とし,
手漉きテスキのものが良質とされています。
画仙紙:水墨画では一番多く使われ,墨の発色がよく,滲みや
暈しがよく出るのが特徴です。滲みを押さえたいときは,墨
に胡粉ゴフンを少量加えます。
本画仙に近い梅花箋バイカセンや,竹茗画仙紙,不二画仙紙,蘭
亭画仙紙などがあります。
鳥の子紙:日本画用から襖フスマ紙まで広く使われています。楮と
雁皮ガンピで漉スいたもので,紙質は細かく,丈夫です。
紙肌が細かく滑らかなので,墨の暈しやたらし込みなどもで
き,また滲みが少ないので線描きに適しています。
麻紙:麻の繊維に楮を混ぜて漉いたものです。紙肌は鳥の子よ
り粗く,薄手も厚手もあります。
手の込んだ作品や大作向きでしょう。筆跡があまりつかない
ので,重ね描きができるため,風景画などに適しています。
また,墨の滲み,発色の重厚な味も,この紙独特の持ち味と
いえます。
麻紙には,雲肌麻紙,薄麻紙,生麻紙,白麻紙などがあり,
自分の描きたい作品に適したものを選んで下さい。
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