21 《現代水墨画》
〈調墨〉
1 水墨画の材料と用具
(1)墨スミ
水墨画を描く上で,まず大切なのが墨です。日本製の墨を和墨,
中国製のものを唐墨と呼びます。
墨の種類は,松の煤ススで作った松煙墨,桐の実の油,菜種油な
どの煤で作った油煙墨があります。
松煙墨は唐墨に多く,その色相は美しく青味がかっているので
青墨とも呼ばれています。古いものは古墨として珍重されていま
す。
油煙墨は色相的にはやや褐色がかっていますが,透明な感じが
あり,濃くすればするほど,光沢や艶が増してきます。現在の和
墨はほとんどこの製法で作られ,ほかに着色加工をして松煙墨の
ような青墨,黒味の深い紅花墨,紫味がかった紫墨などがありま
す。
水墨画は,黒色の変化が豊かで微妙な表現ができる青墨が好ん
で使われますが,最初は画材店に訪ねて,黒色の発色(発墨)が
よくて,筆につけて描いたとき長い線が楽に描ける延びのよいも
のを選んで,買い求めましょう。
(2)硯スズリ
硯にも日本製と中国製があり,石質の硬いもの,軟らかいもの
などありますが,墨のすり具合のよいものが,よい硯とされてい
ます。要は墨が早くすれて,墨のおり方がよいものが一番で,選
ぶ際には指に水を少しつけて,硯の床をすってみると,ざらつか
ず,滑らかに吸い付いく感じがするものが良いでしょう。
硯の石材は水中にあるものが美材とされており,渓谷や渓流の
中から採石されます。
日本硯で有名なのは,長野県の村雨石,栃木県の研厳石などで,
中国の端渓に墨のすれ具合が似ているとされています。
中国硯では唐,宋の時代から採石されてきた広東省の端渓硯が
昔から最高といわれています。
(3)液墨エキボク
墨汁には,缶入りのほか,チューブに入った練り墨もあります。
チューブ入りは,屋外での写生や旅行先で作品を描くときなどに
便利ですので,揃えておくとよいでしょう。
(4)筆洗ヒッセン
きれいな水を入れて筆を洗うのに使用します。一般には陶製の
もので,間仕切りのある長方形のものが使いやすいでしょう。
(5)絵皿エザラ
墨の濃淡を試したり,筆先を整えたりするときに使います。
絵皿には,梅皿と平皿があります。梅皿は梅の形に間仕切りが
してありますので,濃淡を整えたり絵具を数色使うときに便利で
す。平皿は水墨画では,調墨皿といいます。
(6)羽根箒ハネボウキ・木炭挟み
羽根箒は,下書きした木炭や塵などを払い落とすために使いま
す。場合によっては柔らかい刷毛や筆でも代用できます。濡れた
り,湿ったりしたものを使いますと,画面が汚れますので注意し
ましょう。
木炭挟みは,短くなった木炭を挟んで使用すると便利です。
(7)下敷き・布巾フキン
下敷きは,作品を描く紙の下に敷く布です。水墨画用の紙は薄
く,墨や水を裏に通しますので,必ず使用して下さい。色は白な
どなるべく薄い色,材質はフェルトや羅紗のものがよいでしょう。
布巾は,筆に含まれた墨や水の量を調節したり,洗った筆を拭
くのに使います。タオル,手ぬぐい,ガーゼなど,水分をとる布
きれです。
(8)木炭
木炭は,構図のアタリや,手本画を模写するときに用いるもの
です。
日本画用に作られた木炭で,桐炭ともいい,柳の枝を蒸し焼き
にしたものです。
(9)水匙スイジ・文鎮ブンチン・筆置き
水匙は,筆洗から硯や絵皿に水を移すのに使います。普通のス
プーンでも代用できます。
文鎮は,絵を描く紙が動かないように,紙の端に重しオモシとし
て置くためのものです。細長い金属製のものが使いよいですが,
河原で拾った石ころでも代用でき,ユニークです。
筆置きは,水墨画を描いている途中で筆を置くときに使います。
うっかりして筆が転がって,作品を汚すことがありますので,用
意しましょう。枯枝の代用品も素敵です。
(10)筆立て・筆巻き
筆立てはコップなどでも代用できます。描き終わった筆を,墨
が穂に残らないように筆洗でよく洗い,柔らかい布で水分をよく
とって下さい。穂先を痛めたり,変な癖がつかないよう穂先を整
えて,穂先を上にして立てて置きましょう。筆立ての中に防虫剤
を入れておきますと,穂先に虫がつきません。
筆巻きは書道用を使います。筆巻きは細竹を紐で組んだもので,
これで筆を巻いて持ち運びますと,穂先を痛めませんので,遠出
の写生や旅先での作品づくりのときは便利です。
(11)その他の用具
鉛筆:HB〜6Bの堅さの鉛筆を用意しておきましょう。陰影や暈
しボカシの調子を表現するときは4Bや5B,線をしっかり描くと
きは2B〜HBくらいのものを選びます。
色鉛筆:色鉛筆は野外写生のとき,その風景の実際の色を描き
とめておくのに使います。また,描いた上から水を含ませた
筆で彩色できる水彩鉛筆(24色)もあります。
矢立て:矢立ては筆を入れる筒と墨壷のついたもので,持ち運
びに便利な筆記用具入れです。写生旅行には是非携帯しまし
ょう。
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