04 日本画への第一歩
《日本画の知識》06.09.23
〈筆による表現〉
△運筆の基本1
@筆の特長と用途
毛筆は,中国や日本で古代から使用されてきましたが,世界の中
でも生命感や精神性を表現するには最も優れた用具の一つとい
えます。
運筆の遅速,方向,筆圧,絵の具や墨の含ませ具合などにより,
落ち着いた深い味わいや軽妙な感じ,滑らかさ,渋さ,勢いな
ど,様々な表現を自在にすることが可能なのです。筆から描き
出された線は,リズムを伴った生命感を表現できるのです。ま
たこのように描き手の気持ちを端的に表現するためには,筆の
用途を考えなければなりません。
線描き筆にもいろいろあり,削用筆は肥痩線ヒソウセン,面相筆は細
い線,則妙は柔らかな線を描くのに適しています。彩色筆は筆
先が軟らかく水の含みがよいので彩色に適しています。このよ
うに基本的にはそれぞれ用途が異なりますが,要はどの筆も描
き手の感情や生命感を素直に吹き込んで表現する最高の用具な
のです。
A筆のおろし方
新しい筆は穂先が固くなっているので,
ア 穂先をきれいな水に浸し,
イ 軽く筆毛を揉モむようにして洗い,筆洗の中で筆の糊ノリ分を洗
い落とす。
ウ 次に指先で挟んで水を切り,穂先をよく揃える。
B線の引き方
まず筆に慣れることからはじまる。
正しい姿勢にして,背筋を伸ばし,呼吸を整えて,精神を集中さ
させますと,自然に気持ちが楽になります。
ア 半紙などの紙を準備する。
イ 硯で墨をすって皿にとり,墨色を一定の濃度に整える。
ウ 筆の軸の中程よりやや上部を持ち,できるだけ直立させる。
オ 穂先は,線の中央にあるようにする。
カ 線は,一定の筆圧,一定の速度で引く。
この運筆は,線を描くのに筆を紙面に直角に持つので,直筆とい
います。
一方,筆を傾けて筆の腹を使って描く運筆は,穂先の方が濃く,
手前の方が薄く描かれるので,筆勢や墨の濃淡による変化が生
じて柔軟性のある線となります。
△運筆の基本2
@たらし込み
紙地にゆるく溶いた水絵の具又は墨でため描きし,ほかの色や濃
墨をたらし込む方法で,濃淡の浸潤シンジュンの効果を楽しむ,一
つの偶然性を狙ったものです。
ア 梅皿に墨をとって,3〜4段階の濃度をつくる。
イ 薄墨で溜タめ塗りをする。
ウ 乾かないうちにもう一本の筆に濃墨をつけて,たらし込む。
A掘り塗り
毛筆で描いた輪郭の線を残して,墨又は絵の具で彩色することで
す。平面的な描写の中で,「もの」を区別するときに用い,人
物の着物模様や花などの表現によく使われます。
ア 葉の例では,まず薄墨で葉の形・葉脈などの輪郭を線描きする。
イ 続いて,手前の葉と,向こうの葉の調子に変化をつけながら,
線を残して葉の色をつける。
ウ 葉脈は,太い線や細い線で描かれているので,よく観察して色
を塗りましょう。
エ 全体を眺めながら,それぞれの葉に調子をつける。
B暈ボカし
この技法は,日本画を描く上で必ず用いられるものです。墨又は
絵の具を濃い色から淡い色へと,徐々に変化してゆくように描
くことです。隈取りクマドリともいいます。
ア まず筆を2本用意し,一本を親指と中指の付け根の間にヨコに
して挟み,それに立て掛けるようにもう一本を人差し指と親指
とでタテに持つ。このように,2本の筆を交互に持ち替えて使
う。
イ はじめ,濃い墨で線を描き,水を含ませたもう一本の筆で素早
く暈す。
ウ 浸透性の紙を用いる墨の場合,先に水を引き,濃墨をのせて暈
す方法もある。
エ また破墨の効果を活かすため,暈す周辺に水を引き,濃墨をそ
の中心に入れて,隈取り筆で周りに暈していく。
破墨とは,濃墨と薄墨の滲みにより発墨の効果が得られること。
△運筆の基本3
@模写から学ぶ運筆
模写とは,正しく形を線で写しとることです。しかし単に輪郭線
を模倣するだけでなく,模本の全体の流れをよくみて,筆勢,
筆圧,筆の方向性など,模本の作者の精神をも写し取る心がけ
が必要です。
A模写の仕方
ア 硯ですった墨を皿に移し,3色の濃淡をつくる。
イ 模本の上にに唐紙を置いて文鎮で固定し,興味を感じたところ,
又は画面の上部から描き始める。
参考:「日本美術教育センター」
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