28 茶道陶磁その5
 
              茶道陶磁その5
 
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水指ミズサシ:水をいれて手前座テマエザに据えます道具です。その種類は真台子シンノダイスに用
 います真の皆具カイグの一つとしての唐銅水指を始め,金属・磁器・陶器・塗物・木地
 のものなどがあります。また台子・棚・長柄に載せて用いる場合と,直置ジカオキにする
 場合とがあります。運びになるか置きになるかは,大きさによって分けられます。
  水指には濃茶に相応しいものと,薄茶向きのものとがあります。最近この区別が次
 第に忘れられ,道具の格とか位が無視されてしまっていますのは残念です。濃茶には
 南蛮の水指が重用され,漢作・唐物茶入などが取合いますし,備前・伊賀・信楽・唐
 津・志野などもまた唐物や瀬戸茶人に相応しいです。染付・祥髄ションズイ・赤絵・色絵
 水指は薄茶用の水指です。磁器質のものは本質的に薄茶の雰囲気を持つものです。
  △桜川サクラガワ水指(高9.4p,胴径21.9p 藤田美術館):古染付型物水指です。明
 末清初天啓頃の景徳鎮ケイトクチン窯のもので,貿易品です。口縁などに釉剥げや虫喰いが
 あり,素朴な茶人に好まれました。内面に桜の花が陰陽で二十数個描かれ,外面に波
 頭が表されているところから,桜川水指と呼ばれるようになりました。現存の同手水
 指は極めて少ないです。他の型物水指に比して厚作りで,口縁も二段となっており,
 高台も重厚です。東本願寺伝来のものです。
  わが国に舶載されたこれらのものを古染付と称したのは,新渡シントに対して古渡りの
 意味からの呼称です。型物とは一定の型と紋様を有するもので,香合が有名です。古
 染付水指の型物には芋頭イモガシラ・竹節タケノフシ・竹絵・葡萄棚ブドウダナ・手桶・桶側オケ
 ガワなどが知られます。
  △祥瑞ションズイ釣瓶ツルベ水指(永楽保全エイラクホウゼン造 高21.2p,胴径23.3p 滴翠美
 術館):永楽保全が,嘉永4年(1851)三井寺円満院覚諄カクジュン法親王の御用窯とし
 て始めた長等山ナガラヤマ焼,又は三井御浜焼と呼ばれる「湖南焼」の落款ラッカンのある作
 品の中でも傑作のものです。
  江戸から戻り,和全ワゼンとの不和の中で京都にも入らず,近江三井寺の近くの仮寓
 カグウ中の保全最晩年の作品です。底部の山疵ヤマキズなどが,京作時代のものに比較して
 十分な土や釉薬を入手できなかったことを示していますが,往時の名工の面影は知ら
 れます。なお保全は,正しくは「やすたけ」といいます。
  △青磁太鼓胴タイコドウ水指(重文 高20.5p,胴径24.5p 静嘉堂文庫):碪キヌタ青磁
 水指中の最高傑作といわれています。南宋龍泉窯リュウセンヨウのもので,胴部や蓋表フタオモテ
 の牡丹ボタン唐草紋カラクサモン及びるいざなどは陽刻で,貼付法が採られています。共蓋の
 摘みは精巧で,周囲には覆輪フクリンがはめられ,身は太鼓胴です。青磁釉はやや不透明
 で,厚味を感じさせる粉青色です。また釉肌は滋潤玉ジジュンギョクを想わせ,無疵ムキズ
 の完器です。元来は蓋物鉢でしたものを,水指に見立てました。
  △古染付葡萄棚水指(高18.5p,口径8.5p 香雪美術館):古染付型物水指です。
 共蓋トモブタで八角に面が取られています。その八つの面は,それぞれ棚から葡萄が下が
 っていますが,意匠化された図柄で纏めています。素地は極めて白く,コバルトも美
 しく冴え,涼を呼ぶ夏用水指です。
  △絵高麗水草紋水指(高16.3p,胴径19.8p 茶道文化研究所):中国河北省磁県
 の滋州窯の作品です。北宋時代の製で,銹絵サビエによる水草紋が二段に描かれていま
 す。このように白化粧を施した上に黒絵付をした陶器を,古来茶人は「絵高麗」の名
 で総称しています。
  大型の碗で,高台があり,黒絵掻落手カキオトシテの七宝紋・藻魚紋・蝶紋などの優品が
 採り上げられ,近年に至って水指として用いられるようになりました。
  なお絵高麗と呼ばれるものには,梅鉢紋(実は七曜星紋シチヨウセイモン)の平茶碗や,魚
 紋鉢の他に,朝鮮李朝期の牡丹花紋などのものも含まれています。
  △色絵阿蘭陀オランダ水指(高15.2p,口径17.8p 藤田美術館):江戸時代,阿蘭陀
 船による貿易によってわが国にもたらされたデルフト窯の貿易品の容器を,水指に取
 り立てたものです。紋様は煙草タバコの葉と呼ばれており,色絵釉で全面に描かれ,異
 国情緒に満ちています。青釉や白釉などの無地のものもあり,大きさや形から替茶器
 カエチャキ・蓋置・花入・向付・香合や火入・巾筒キンヅツなどに用いられています。
  △祥瑞ションズイ蜜柑ミカン水指(高17.7p,胴径23.0p 五島美術館):祥瑞共蓋水指の
 中では,蜜柑が最も著名です。また現存します蜜柑は2種に大別され,在銘のものと,
 二重枠に福の字のものとがあります。肩には紅紐ベニヒモがみられ,絵紋様が形式化され
 て,在銘のものに比べますと固さが目に付き,時代の下降が認められます。一般には
 蜜柑の姿に従って高台を持ちませんが,この水指には高台が付けられ,胴の丸紋も窪
 みがみられません。祥瑞はその紋様に,山水に舟・鹿・鳥・松竹梅などの祥瑞紋が描
 かれているところからの呼称です。
  △仁清ニンセイ色絵牡丹水指(高13.8p,胴径15.7p 東京国立博物館):御室焼オムロヤキ
 仁清作の水指です。仁清は本名を野々村清右衛門といい,仁和寺ニンナジ門前に住し,上
 堂貴顕ジョウドウキケンの知遇を得,金森宗和カナモリソウワの指導により,優雅な色絵陶を焼造し
 ました。この水指は四方に窓を開け,牡丹花を豪華に描いて富貴長春の趣を見事に表
 しています。他には柳橋水指を始め,菊水水指,龍田川タツタガワ水指など同形のものが
 知られます。なお高台内には仁清の大印が捺されています。
  △三島芋頭イモガシラ水指(高18.1p,胴径18.4p 根津美術館):朝鮮李朝時代の三
 島暦手の水指です。芋頭とは,形が里芋に似ているところからの呼称で,古染付や南
 蛮物などにもみられます。
  また三島暦手の名称も古く,室町時代末期既に茶会記にも散見するところです。伊
 豆三島大社の暦の連想からの呼称であるといわれています。同手のものに重文「高霊
 仁寿府コウレイジンジュフ」銘の芋頭水指(静嘉堂文庫)があります。
  △南蛮縄簾ナワスダレ水指(高16.0p,口径17.1p 藤田美術館):南蛮水指の種類は
 十余種を数えますが,中でも格調が高く堂々としたものに縄簾があります。鉄分の多
 い細やかな土を用いるために口作りが引き締まって,信楽鬼桶オニオケより遥かに整った
 姿をしています。この手の水指は,一般に景色のない全面が茶色一色に焼き上がった
 ものが多いですが,これには胴から腰にかけて見事な焦げがあり,誠に珍しいです。
 漢作唐物茶入や唐物茶入などを前にして,初めてその風格を表す水指であるといえま
 す。
  △志野芦絵水指(銘古岸コガン 重文 高17.2p,口径18.3p 畠山記念館):織部
 好みの作風を如実に表現した代表的水指で,志野橋絵水指と双璧をなします。首の部
 分を強く引き締めて腰を張った堂々たる風姿は,桃山時代の豪放な様式を示すもので
 す。また口造りの矢筈ヤハズと畳付タタミツキの面取りは単なる民芸で終わることなく,工芸
 の域にまで引き上げる重要な視覚的契機となっています。芦絵の発色も素晴らしく,
 素朴です。
  △朝鮮唐津水指(高14.3p,口径18.5p 北村美術館):古唐津の一種に,黒飴釉
 と白海鼠シロナマコ釉の掛け分けによる対称的な面白さを狙った朝鮮唐津があります。花入
 ・香合・向付・鉢・茶碗などがありますが,水指は少なく,同形の一重口ヒトエグチのも
 のが今一つあり,他に千家名物の「廬瀑ロバク」(種壷形)があります。口縁辺りから
 なだれ落ちる青白い釉薬は置形オキガタとなり,見事に決まっています。土見ツチミが高く,
 三段の景色をなします。
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