27a 茶道陶磁その4
△仁清水玉透鉢スカシバチ(高12.0p,径17.0p 畠山記念館):口を輪花形とし,胴
部を大小の水玉に透かした中型の鉢です。釉薬は仁清釉と称する兎の斑ウノフ釉を薄く掛
け,ところどころに溜まりをみせ,瑞々しい感覚を出しています。片男波カタオナミの茶碗
や仁清信楽にみる清楚な仁清陶芸の一面を示す見事な鉢です。
仁清には水玉透鉢が幾つか遺存しますが,一点ずつ皆異なる形をしています。ほか
に百合ユリ鉢なども知られ,その意匠は独創的でしかも洗練された優美な感覚に溢れて
います。仁清には色絵の鉢をみません。
このような中型又は大型の鉢類は,客に預けて煮物,酢の物,和アえ物などを入れて
薦めるところから,預鉢アズケバチ又は進魚ススメザカナ,強魚シイザカナと呼ばれます。
△織部扇面形センメンガタ蓋物(長径27.9p MOA美術館):桃山時代美濃で焼造された
陶器のうち最も斬新な意匠で知られますのが織部焼です。食篭ジキロウ又は蓋物鉢として
懐石道具に用いられ,菓子器にも援用されます。蓋表には根竹の手を要カナメから取り付
け,蓋裏には扇骨を浮き彫りで表し,身の胴部には銅緑釉をたっぷりと掛け,全体を
手強い作風に纏め上げています。底部には三つ足を付け,土見としています。
蓋物は食篭としても使用され,磁器では青磁太鼓水指なども本来は蓋物鉢でした。
赤絵丸形食篭(大明萬暦ダイミンバンレキ年製)のほか,染付蓋物も多いです。陶器では,
備前物,京焼の色絵陶器にも優れたものがあります。乾山焼では,梅花紋散食篭,松
絵食篭などがその代表的名品といえます。寒中に焼魚や茄子田楽などを盛り付けて,
客に薦めるのも一興です。
花入ハナイレ:床に飾り,花を活ける器として,いけばなでは花器と呼び,これを作る工芸
家を花瓶カヘイと称し,美術館などでは花生と呼んでいますが,茶方では古来「花入」が
一般に用いられております。
花入の分類
銅器 − 青銅・黄銅・唐銅・砂張・モール
磁器 − 青磁・白磁・青白磁(銅器に準ずる)
染付 − 古染付・藍呉須・祥瑞ションズイ・安南
赤絵 − 金襴手・古赤絵・呉須赤絵
陶器 − 施釉陶 − 唐津・瀬戸・楽焼
色絵陶 − 京焼・色絵薩摩
自然釉陶 − 備前・伊賀・信楽・丹波
土器 − 縄文・弥生
竹・籐・瓢 − その他
花入の中で最も格式を重んぜられますのは銅器の花入で,古くは殷イン(B.C1800〜
1122)の青銅器に始まり,觚コ・尊ソン・壷コなどの酒器として用いられ,後世の写しや
装飾化されたものが一般に用いられるようになりました。
茶席で今日使用されている古銅の花入は明・清時代のもので,唐銅・胡銅と称する
場合は中国・東南アジア・印度・中近東方面のものを指すようです。また印度西北部
のムガール帝国やペルシャ方面の打出し模様のモールや,わが国独特の経筒なども使
用されることがあります。砂張サハリは東南アジアから中近東にかけて広く用いられてい
ますが,ポルトガルやオランダ船などの南蛮貿易によってもたらされましたので南蛮
砂張の称が知られ,東山時代既に南蛮ものとして珍重されていました。南蛮砂張の釣
舟花入の優れたものは大名物に指定され,天下三舟(茜屋アカネヤ・淡路屋・針屋)とか
天下五舟(平船・松本を加えます)とか称され著名となりました。青磁花入は銅器に
類した型のものが主流をなし,その均整のとれた格調高い気品の故に銅器花入に準じ
て用いられ,白磁・青白磁(影青インチン)もまた同様です。
染付・赤絵系の花入は,その絵付や装飾において煩雑さと騒がしさを否めません。
従って青磁が濃茶に用いられても,染付や赤絵は薄茶用の花入としてのみ認められる
性質のものでしょう。
焼物花入は大別しますと施釉陶と自然釉陶に分けられます。唐津・瀬戸・志野・高
取・萩焼は表面に釉薬を掛けた花入であり,楽焼や色絵陶もまたこれに属しますが,
楽焼や色絵陶などは薄茶用花入として扱われます。
自然釉陶には伊賀・信楽・備前・丹波などがありますが,伊賀は土もの花入中の王
座を占め,その貫録と味わい深さは格別です。そのため名物手とも称せられ,古墨蹟
の前に置かれ堂々とした風格と寂びた美しさが賞揚されたのです。古来伊賀に次ぐ名
花入の多いのは備前です。侘びた感覚に重厚な力量感が加わってひとしお数寄茶人の
愛好するところとなったのです。近年ペルシャの土器やインカの彩色土器などが用い
られるようになってきましたが,わが国の縄文式土器・弥生式土器・須恵器も屡々茶
に飾られるようになりました。珍奇なものとしてこれらを採り上げて花入とすること
は,誠に結構ですが,掛物の前に置いて取り合うかどうかは,充分に考慮されなけれ
ばなりません。
唐物花入の持つ卓抜した技法から受ける重厚味は和物や好み物篭花入にはみられな
いものです。利休が盛んに好んで作りました竹の花入もまた侘び道具の重要な位置を
占めるようになりましたが,それだけに形態や種類も多くなり,変化を求める好み物
が現れるようになりました。その種類の煩雑さの故に,掛物との取合せが乱れたり,
書院や広間と小間の道具の差異に関する認識が稀薄となりました。
△碪キヌタ青磁鳳凰耳花入(重文 高33.7p,口径12.8p,底径13.6p 五島美術館)
:南宋時代,龍泉窯の傑作でわが国にも十数点伝来しています。中でも国宝の「万声
」,重文の「千声」は有名ですが,この花入はその大きさ,釉色共に一段と優れ,王
者の風格があります。
△伊賀花入 増鏡(高28.5p 野村美術館):伊賀の花入は古来茶人に愛好されて
陶器花入れの王者を占め,名物に準じる程重視されてきました。これは「芙蓉」「寿
老人」などと共通する様式のもので,古伊賀花入中の傑作の一つです。正面左半分に
は焦げ,裏面にはビードロと茶色い照りがあり,古様で素朴な作風です。肩にるいざ
があり,一段括れて力強い表現がみられます。底部はいわゆる円座底で重量感に溢れ,
墨跡の前に置いても堂々と治まる貫録を持っています。
△信楽耳付花入(高26.5p 野村美術館):「伊賀に耳あり,信楽に耳なし」とい
う茶方の言葉がありますが,この花入は信楽でありながら耳付で珍しいです。この形
は伊賀「生爪」花入や信楽花入にもみられますが,これ程の優品はありません。口か
ら流れたビードロが一段締まった胴部で溜まり,一挙に下へ流れ落ちた感じです。そ
の照りの明るさはビードロを美しい萌黄色に引き立てて,遠州時代の信楽特有の洗練
された感覚を表現しています。伊賀とは全く異なる明快さがあります。
参考:保育社発行「茶道用語辞典」
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