26 茶道陶磁その3
[ち]
茶入チャイレ:栄西禅師が宋から持ち帰った茶の種を栂尾トガノオの明恵上人に贈りましたが,
その茶の種を入れて与えたと称する容器が高山寺の宝物として現存します。「漢柿蔕
アヤノカキベタ」と呼ばれる大海の茶入がそれであるといわれています。濃茶器としての茶
入は大別しますと漢作唐物・唐物・和物・島物に分類されます。
唐物茶入は漢作唐物と唐物とに分けられ,漢作は宋元のもの,唐物は初代藤四郎が
帰国後,中国の土と釉で焼いたとする伝説があります。両方とも中国産で,唐物と称
するものは明代永楽期以後のわが国からの注文品でしょう。その茶入の殆どは所持者
の名を冠して銘としたものです。現存します唐物茶入に関して,漢作唐物・唐物の分
類は曖昧で,箱書や文献にあります記載に従っているに過ぎません。
1 漢作唐物茶入
土型(陶範)で形成され,首部(上部)と底部(下部)を合わせて胴継ぎしたとこ
ろに継目を押さえた箆ヘラの跡が,胴紐となって残っているものが多いです。元来は貿
易品の容器として大量に生産されたものであり,その中から当時の茶人達が,特に優
れたものを茶入として採り上げたのです。宋末元初頃の古作の漢作唐物の釉薬は一種
類のものを内外に掛けたもので,「初花ハツハナ」「松屋」「遅桜」などのように景色の
あるものは極めて珍しいです。
2 唐物茶入
漢作に比べて小さく,優美な作行きのものが多く,注文品でしょう。轆轤ロクロ引き
で,胴継ぎはありませんが全体の均衡を考慮して胴紐を引いています。これら唐物類
は景色より寧ろその姿の整ったものを高く評価してきました。
3 和物茶入
古瀬戸・本窯・後窯・国焼など,わが国で焼造された茶入の総称で,その景色ので
き具合に重点が置かれ,その分類を「手分け」と称しています。
その形や所在・発見の地名や所有者の名に因る手分けを始め,古歌に因る手分けが
行われています。
4 島物茶入
南蛮貿易などにより,東南アジア,南中国,ルソン,琉球などからもたらされた容
器を茶入として採り上げたものをいいます。
唐物茶入の器形と分類
唐物茶入 − 小壷 − 茄子,文琳,文茄,尻膨,丸壷
肩衝・大肩衝・小肩衝
雑唐物 − 大海・内海・柿
胴高・車軸・太鼓
鶴首・瓢箪・餌畚
飯胴・驢蹄・鮟鱇
瓶子・勢至・瓜柑子
絃付・耳付・その他
和物茶入の分類
和物瀬戸焼 − 本窯 − 古フル瀬戸(藤四郎春慶・瀬戸春慶・口元手・厚手・掘出手)
真中古(野田手・橋姫手・思河手・大瓶手・大覚寺手・面取
手・小川手・藤四郎手・柳藤四郎手・塞手・正信春慶手)
金華山(飛鳥川手・玉柏手・瀧浪手・青江手・生海鼠手・大
津手・広沢手・真如堂手・磐余野手・二見手・藤浪手)
破風窯(翁手・凡手・口広手・渋紙手・皆川手・音羽手・正
木手・橋立手・玉川手・米市手・市場手)
後窯 − 利休窯・織部窯・正意作・宗伯作・源十郎作・新兵衛作・万
右衛門作・茂右衛門作・吉兵衛作
△松屋肩衝カタツキ茶入(重文 高7.7p,胴径8.5p 根津美術館):奈良の塗師屋ヌシヤ
松屋源三郎に伝来したので松屋肩衝茶入の名がありますが,元松本珠報シュホウが所持し
ましたので松本肩衝ともいわれました。松屋にはこのほか「徐煕筆ジョキヒツ鷺絵サギノエ」
「存星盆ゾンセイノボン」などが有名で,松屋の三名物といわれました。昭和3年島津家の
売立入札に129千円で根津青山の求めるところとなりました。
大名物漢作唐物肩衝中の白眉とされ,利休・織部・遠州がそれぞれ違った置形オキガタ
(元来は置方)を見立てています。松本珠報が足利義政に献じ,村田珠光が拝領し,
弟子の古市フルイチ播磨澄胤チョウインに伝えられ,松屋の手に入った後,幕末頃島津家に移っ
たと伝えられます。肩衝茶入としては胴が張り,口も広く,大名物「種村肩衝茶入」
などがこれに類します器形です。
△種村タネムラ肩衝茶入(高8.2p,胴径8.5p 野村美術館):大名物漢作唐物肩衝茶
入です。別名「木下肩衝」「都帰り」「棚村肩衝」などとも呼ばれています。種村と
は近江佐々木氏の武将種村刑部少輔ギョウブノショウユウの所持に因ります。木下は木下宮内
クナイ少輔の所持,都帰りは狩野探幽が所持したとき明暦の大火で紛失,後京都御所司代
牧野佐渡守親成チカシゲが見出し,探幽に返付した逸話に因ります。
江戸後期に松平不昧フマイの所持するところとなり,「雲州名物帳」の宝物の部に入れ
られ愛蔵されました。器形は松屋肩衝に類似し,背が低く胴の張りが強いです。置形
は明瞭ではありませんが,畳付タタミツキの上で止まっている釉なだれがあります。土は金
気色で,底は唐物の板起こしとなっています。付属品には藤重フジシゲの四方盆があり,
内面は朱塗,外面は青漆,底部は黒漆です。蓋は6枚あり,何れもす蓋で遠州好みで
す。
△宗悟ソウゴ茄子ナス茶入(高6.5p,胴径6.8p 五島美術館):大名物漢作唐物茄子
茶入れで,十四屋ジュウシヤ宗悟が所持したのでこの名があります。宗悟は古岳宗亘コガク
ソウコウに参禅し,北向道鎮キタムキドウチンとともに紹鴎ジョウオウの茶の師といわれています。
大振りの茄子で徳川家の「茜屋アカネヤ」の作行きに類似します。口造りは捻ヒネリ返しが
強く,釉薬は飴色で濃く光沢があり,胴継ぎのところに胴紐を付けています。仕覆シフク
は糸屋風通フウツウ・笂屋ウツボヤ緞子ドンス・木綿間道カントウの三つです。
△本能寺文琳ブンリン茶入(高7.3p,胴径6.9p 五島美術館):大名物漢作唐物文琳
茶入です。信長が本能寺に寄進したことによる名称です。元朝倉義景が所持しました
ので朝倉文琳とも,三日月状の火間ヒマがあるところから三日月文琳とも呼ばれます。
本能寺から中井大和守正次へ,更に小堀仁右衛門に伝来しましたが,幕末に不昧フマイの
求めるところとなり,「雲州名物帳」大名物に列しました。甑コシキが高く,肩が張り,
飴色のなだれが右上から左寄りに流れ下り,置形をなしています。形姿は苫屋トマヤ文琳
に類し,甑が締まって凛々しいです。仕覆は全て遠州好みと考えられ,七つ添えられ
ます。盆は堆朱ツイシュ五葉盆で張成チョウセイの彫銘があります。肩衝茶入の盆は原則として
四方盆ですが,輪花盆リンカボンもあります。
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